<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 研究炉等
<小項目> 発電炉・開発中の炉・研究炉以外の原子炉
<タイトル>
海上立地浮体式原子力発電所 (03-04-11-07)

<概要>
 原子力発電所を海上に設置する立地方式は、立地選択の自由度が大きくなり、周辺を海に囲まれている日本の特徴を生かすことができる。海上立地方式の種類、原子力発電所以外の浮体式構造物の例、日本における浮体式原子力発電所の設計概念、米国におけるAGS浮体式原子力発電所計画、および既に建造を開始しているロシアの熱電併給用浮体式原子力発電所について概説する。ロシアでは原子力砕氷船用の舶用炉をバージに搭載した熱電併給用浮体式原子力発電所が建設中である。
<更新年月>
2007年06月   

<本文>
 日本では、原子力発電所の立地場所は都会など電力需要地から遠く離れている。陸地は高度に利用されており、立地できる場所も限られている。また住民運動の高まりもあって、新たな立地場所を探すことはますます困難な情況にある。このような原子力発電所立地選定の背景のもとで、国としても新たな立地方式を模索している。
 海上での立地が可能であれば、立地選択の自由度が大きくなり、周辺を海に囲まれている日本の特徴を生かすことができ、また立地の電力需要地近接が図りやすくなる。ここでは、海上立地方式の種類、浮体方式の分類、日本で検討した浮体式原子力発電所の基本概念、原子力発電所以外の浮体式構造物の例、米国におけるAGS浮体式原子力発電所計画、および既に建造を開始しているロシアの熱電併給用浮体式原子力発電所について概説する。
1.海上立地方式の種類
 表1に原子力発電所の海上立地概念的形式の分類を示す。原子力発電所の海上立地方式の概念的分類としては、着底式と浮体式に大別される。これらのうち、海上に浮体式構造物(プラットフォーム)を浮揚させそのプラットフォーム上に原子力発電所を設置する浮体式海上立地発電所は、1)埋め立てによる土地造成が必要ない、2)原子力発電施設とプラットフォームが工場で一貫して建造できコストダウンが期待できる、3)原子力発電施設とプラットフォームの建造および海上立地サイトの工事が並行してできるので工事期間を短縮できる、4)大型プラットフォーム(メガフロートなど)の建設経験を活用できる、等で実現性が高いと考えられ、将来有望な立地方式として検討されている。
 この浮体式海上立地原子力発電所は、免震性、設計標準化、工期短縮など多くの長所を有しているが、岩盤に立地する従来の原子力発電所とは異なる立地概念である。したがって、「原子力の利用、開発および利用に関する長期計画」(平成6年6月原子力委員会決定)においても立地技術の高度化の一環として浮体式海上立地原子力発電所の検討が謳われている。日本原子力研究所(当時、現日本原子力研究開発機構)が浮体式海上立地原子力発電所の概念の検討および安全設計の検討を実施した。
2.浮体方式の分類
 海上における浮体方式は、浮上式、半潜水式および潜水式に分類できる。浮体構造物は、鉛直方向は浮力によって、水平方向は係留装置によって支持される。表2−1表2−2および表2−3に浮体方式の特徴による分類を示す。浮体方式は設置する水深によって大水深(数百m)と小水深(深くても百m)のグループに分けられる。大水深の場合は波などの低減効果のあるアンカー半潜水式、小水深の場合は浮上式が代表的である。
3.浮体式原子力発電所の基本概念
 日本原子力研究所(当時)が検討した浮体式原子力発電所の基本概念を以下に述べる。
(1)設置海域
 浮体式原子力発電所の設置場所は、アクセスの容易さ、経済性等の観点から日本の沿岸地域の浅海域を考えており、立地の拡大と公衆との隔離に対するバランスから1〜2kmの沖合を想定している。静穏海域にするため防波堤を設置し、経済性とのバランスから水深は20m以下を想定している(築堤能力としては水深60mまで可能)。
(2)浮体構造物(プラットフォーム)
 浮体構造物は浮上式プラットフォームとし、洋上での溶接作業量を低減するため造船所ドック内で建造する。
(3)浮体式原子力発電施設
 検討対象とする浮上式プラットフォームに搭載する原子力発電施設(「搭載原子力発電施設」)としては、1,100MWe級の発電用加圧水型原子炉施設を対象とする。低重心化、合理的設計などの観点から、浮上式プラットフォームと原子炉建家とに共有する部分があることも考える。
(4)係留装置
 表3に浮体構造物(浮上式プラットフォーム)の代表的な係留方式を示す。搭載原子力発電所の健全性確保の観点から、浮上式プラットフォームが立地地点の自然条件(風、波浪、地震、津波、高潮など)などに際して極力揺れの少ない係留装置を考える。
(5)浮体式原子力発電所の基本概念
 以上の基本概念を有する浮体式原子力発電所の基本イメージを図1に示す。
4.原子力発電所以外の浮体式構造物の例
 原子力発電所以外の例で大型の浮体式建物が日本で既に建設されている。火力発電所では関西電力(株)が和歌山県の人工島御坊発電所(石油火力、600MWe×3、図2参照)を設置し、1985年3月から営業運転をしている。石油備蓄基地では北九州に白島石油備蓄基地(8隻のバージ)、長崎に上五島石油備蓄基地(5隻のバージ)が建造されている。またメガフロート技術研究組合が、空港実証実験用浮体ではあるが、メガフロート(mega−float、1000m長、図3参照)を横須賀港沖に設置している。これらの浮体式構造物の建造経験は浮体式原子力発電所の建造に際し大いに参考となる。
5.日本における浮体式原子力発電所の概念設計例
5.1 設計基本条件
 前述した基本概念(3.浮体方式原子力発電所の項参照)に加え以下の条件を想定する。
(1)発電所立地海域の水深は、浮体構造物の喫水12.4mを考慮して20mとする。
(2)搭載原子力発電施設のコンパクト化により全体重量が在来原子力発電所の3分の1程度まで軽量化が図れるものとする。
(3)浮上式プラットフォームは造船所で一括建造できるものとする。幅は80mとし、必要面積は長さで調整する。浮上式プラットフォームの構造材料はコンパクト化の観点から鋼製とし、搭載原子力発電施設と浮上式プラットフォームとは構造的には独立した強度を有するものとする。
(4)係留方式は表3に示すドルフィン式とする。
(5)搭載原子力発電所、浮上式プラットフォームなどの点検・保守は立地サイトでできるものとし、廃炉に際しては浮上式プラットフォームを引き出すものとする。
5.2 浮体式原子力発電所の概念例
(1)搭載原子力発電施設
 表4に設計基本条件の想定のもとに概念検討した搭載原子力発電施設の面積と重量を示す。建家面積は在来原子力発電所(1,100MWe)にもとづいた数値である。
(2)浮上式プラットフォーム
 表5に浮上式プラットフォームの主要寸法を示す。構造については日本海事協会の鋼船規則P編海洋構造物および作業船等(1966)を準用した。搭載原子力発電施設とは独立した強度をもち二重殻構造とした。幅は造船所ドックで建造できる80mとし、長さは搭載原子力発電施設の建家寸法と必要面積から300mとした。
(3)全体配置
 図4に浮体式原子力発電所の全体配置図を、図5に鳥瞰図を示す。1,100MWe級の在来原子力発電所が搭載できる浮上式プラットフォームが造船所で建設できるものとし、防波堤を合理的に築堤できる立地サイト(外洋に面し沖合1〜2km,水深20m)に長さ300m×幅80m×深さ35m、総排水量300,000トン規模の浮上式プラットフォームがドルフィン式で係留できる概念が構築できた。長辺方向で800トン/基、短辺方向で1,200トン/基の係留耐力をもつ係留装置を長辺側に8基、短辺側に3基配置した。防波堤の形状と配置については、防波堤内の静穏が十分に確保でき、船舶の衝突に対する防護に適する配置とした。係船岸壁では、在来原子力発電所における最大級(3,000トン)の船舶が係船できる規模とした。
5.3 浮体式原子力発電所に対する安全設計の検討
 日本原子力研究所(当時)では、発電用軽水型原子炉施設の安全設計に対応して、メガフロートおよび原子力船「むつ」の設計を参考にし、浮体式原子力発電所の安全設計について検討を行っている。
 浮体式原子力発電所においては、自然現象に対する考慮では、地震のみではなく、波浪、高潮、海震、津波、スロッシング等が浮体式構造物(プラットフォーム)の動揺を誘起する自然現象がある。これらの自然現象による重要タンク、液体内蔵設備などへの影響については、メガフロートにおける設計が参考になる。傾斜、動揺等による影響は、単に制御棒駆動装置などの機器のみではなく、タービン負荷、自由水面を有する蒸気発生器加圧器、さらに炉心冷却水のDNB現象などの原子炉性能についても原子力船「むつ」の設計と運転経験が参考になる。
 浮体事故(自船の座礁、沈没、他船による衝突など)に対する原子炉防護の事項が安全設計指針に加わると考えられる。原子炉建家構造と浮体式構造物との一部供用の設計を考慮した場合は、供用部分の安全設計は原子炉建家と同様の扱いとなろう。
 在来原子力発電所の地質・地盤に対する設計に対応して、浮体式原子力発電所においては新たな安全設計の考え方が必要であり、メガフロートにおける設計が参考になる。
6.海外における浮体式原子力発電所計画
(1)米国
 AGS(Atlantic Generating Station)は、米国OPS(Offshore Power System)社が計画した浮体式原子力発電所である。既に安全性、周辺環境への影響などの技術的検討がなされており、1982年には米国NRC(原子力規制局)による製造認可を受けていたが、オイルショック後の需要の落ち込み、原子力発電に対する住民の反対運動などにより、実現しなかった。図6にAGSの概念図を示す。ニュージャージー州沖合4.5kmの洋上サイトに、1,150MWeの加圧水型炉を搭載した浮体式プラットフォーム(FNP:Floating Nuclear Platform)を2基並べて係留し防波堤内に配置している。プラットフォームは寸法が115m(幅)×122m(長さ)×12m(深さ)の全溶接鋼製構造物で、米船舶局の鋼製船舶建造船級規格を満足するよう設計されている。
 AGSとして浮体式を選んだ主な理由として、原子力発電所の仕様標準化などによる経済性メリットがあるとOPS社は主張している。すなわち、FNPは専用の工場で建造され、立地サイトまで曳航され据え付けられるので、洋上サイトにおける工事の量が少なくなり、また原子炉施設の建造と洋上サイト工事が平行して行える。この結果、計画から営業運転開始までに要する期間を2割程度短くでき、コスト低減ができる。立地選択の自由度が大きく、用地取得の費用が少なくて済む。
(2)ロシア
 北方遠隔地に石油、天然ガス、ニッケル、金、ダイアモンド、希金属などエネルギー資源、天然資源を多くもつロシアでは、遠隔地用としての浮体式原子力発電所の開発研究をはやくから行ってきた。原子炉は原子力砕氷船で実績のある舶用炉KLT−40(半一体型PWR)を熱電併給用に改良したもので、これを2基バージ(推進動力を持たない船)に搭載し熱電併給用浮体式原子力発電所としている。図7にKLT−40の原子炉プラントの断面図を示す。この浮体式原子力発電所を建設し、燃料不足に苦しむロシア極東ベーリング海峡のチュックチ(ChuckchiまたはチュコトChukot)半島のペベク(Pevek)に停泊させ、住民に電気と熱を供給する計画の検討が進められた。
 ロシア原子力庁(ROSATOM)の許可を受けて、ロシア原子力発電公社(ROSENERGOATOM)は、2006年5月白海沿岸のセヴェロト゛ヴィンスク(アルハンゲルスク州)に最初の浮体式原子力発電所(電気出力70MWe、蒸気586GJ/h)を建設する契約をセブマッシュ造船所と結んだ。KLT−40S2基で、低濃縮ウラン型で重量21,000トン、長さ144mのバージに搭載される。総工費は3.37億ドル(設計費0.3億ドル使用済)でロシア原子力発電公社が80%、セブマッシュが20%の負担割合で、そのほか11サイトに建設を検討している。3−4年で燃料交換を行い、12年間運転後造船所でオーバーホールと使用済み燃料の貯蔵を行う。325MWeのVBER−300(49,000トンのバージ)も可能で輸出が検討されている。
(前回更新:2001年10月)
<図/表>
表1 原子力発電所の海上立地形式の分類
表2−1 浮体方式の分類(1/3)
表2−2 浮体方式の分類(2/3)
表2−3 浮体方式の分類(3/3)
表3 浮上式プラットフォームの係留方式
表4 搭載原子力発電施設の面積と重量
表5 浮上式プラットフォームの主要寸法
図1 浮体式原子力発電所の基本イメージ
図2 関西電力(株)御坊発電所(600MWe×3)
図3 空港実証実験用浮体メガフロート(mega−float、1000m長)
図4 浮体式原子力発電所の全体配置図
図5 浮体式原子力発電所の鳥瞰図
図6 米国の浮体式原子力発電所AGSの概念図
図7 KLT40原子炉プラント

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
トリウムを用いた原子炉 (03-04-11-01)
溶融塩炉 (03-04-11-02)
宇宙炉 (03-04-11-03)
プルトニウム生産炉 (03-04-11-04)
地域暖房炉(熱供給炉) (03-04-11-06)
低減速スペクトル炉の炉概念 (03-04-11-09)
低減速軽水炉の研究開発 (03-04-11-10)

<参考文献>
(1)市来隆一:海上立地技術、第36回原子動力研究会年会報告書、日本原子力産業会議(1999年)、p.Vii−41?49
(2)薮内典明ほか:原子炉施設の浮体式海上立地に関する検討(1)−浮体式原子力発電施設の概念検討−、JAERI−Research 2000−063(2001.2)
(3)薮内典明ほか:原子炉施設の浮体式海上立地に関する検討(2)−浮体式原子力発電施設の安全設計の検討−、JAERI−Research 2000−064(2001.2)
(4)株式会社 森本組:http://www.morimotogumi.co.jp/
(5)メガフロート技術研究組合(平成13年3月解散):http://www.sea−soken.co.jp/mega−float/
(6)World Nuclear Association:Information/Nuclear Power in Russia November 2006、http://www.world−nuclear.org/info/inf45.html
(7)Y.K.Panov et al:Nuclear Floating Power Desalination Complexes,IAEA−TECDOC−1056(1998)93−104,http://www.iaea.org/inis/aws/htgr/fulltext/29067716.pdf
RIST RISTトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ