<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 研究炉等
<小項目> 発電炉・開発中の炉・研究炉以外の原子炉
<タイトル>
溶融塩炉 (03-04-11-02)

<概要>
 溶融塩炉(MSR:Molten−Salt Reactor)は、溶融塩に核燃料物質ウラントリウム)を溶解させて液体燃料とし、ポンプにより燃料塩自身を原子炉と1次系熱交換器の間を循環させて、原子炉で発生した熱を発電等に利用する液体燃料炉である。燃料は冷却材としての溶融塩と一体となり循環するので、運転しながら新燃料の補給が可能となるとともに、燃料処理系を設けることによって核分裂生成物の除去や核燃料物質の連続抽出が可能である特徴をもっている。燃料溶媒となる溶融塩はフッ化物溶融塩(LiF−BeF2)が最適とされ、これに親物質であるThF4および核分裂性物質U−233F4を溶解させる。燃料塩の融点・沸点は高く、蒸気圧も低いので1次系の構造材を薄くでき、効率の高い熱利用システムとすることができる。また、溶融塩炉は、プルトニウムなどの超ウラン元素を実質的に生成しないトリウム資源の有効利用が図れる他に、炉心の燃料インベントリーを少なくすることができるので、核的な安全性が高く核拡散抵抗性が高いなどの特徴を持っている。
<更新年月>
2003年03月   

<本文>
1.溶融塩炉開発の歴史
 世界最初の溶融塩炉(MSR:Molten−Salt Reactor)開発は、米国オークリッジ国立研究所(ORNL)において1950年から1956年にかけて実施されたARE(Aircraft Reactor Experiment)計画である。この原子炉は溶融塩燃料を循環する小型炉(熱出力2.5MW)で、1954年には数日間運転され815℃(最高温度は882℃)の高温を達成した。これらの技術的基盤に基づき、ORNLは商用発電炉を目標として1965年から燃料としてU−235、U−233、Pu燃料を用い溶融塩実験炉計画(MSRE:Molten−Salt Reactor Experiment)を実施し、1969年末に計画を完了した。そして次の目標を溶融塩増殖炉の開発へ移したが、この計画は1976年米国政府の増殖炉開発の一時凍結、財政緊縮政策等により中止された。
 日本では、日本原子力学会の溶融塩炉関連の研究専門委員会において技術検討が行われ(1974年〜1986年)、この炉の持つ基本的特性の評価が行われた。この間に日本においてもトリウム溶融塩炉の検討が行われている。また、最近米国において検討されている第4世代原子炉システムの推進計画の中で、溶融塩炉は研究開発の検討対象原子炉の一つとして選定されている。
2.溶融塩炉の原理と特徴
2.1 原子炉
 溶融塩炉は、核燃料を高融点の溶融塩に溶解し、核燃料と冷却材を一体とした液体燃料型の原子炉である。炉心は黒鉛減速材要素の集合体の中を溶融塩燃料が通過し、核分裂によって発生したエネルギーは1次系、熱交換器を通じて利用される。原子炉システムの概念の一例を 図1 に示す。
2.2 燃料
 燃料は一般にウランやトリウムのフッ化物(U−233F4,ThF4)をフッ化物溶融塩(LiF−BeF2)に溶解させたものが使用される。溶融塩は融点・沸点が高く、高温で熱を取り出すことが可能であることから熱効率の高いシステムを得ることができる。代表的な溶融塩の特性を 表1 に示す。
 燃料が液体であることから、(1)固体燃料のような燃料の成形加工が不要、(2)燃焼に伴う核燃料物質の補給、核分裂生成物の除去を連続的に行うことができるため長期運転が可能、(3)固体燃料に見られる照射損傷などの問題がない、(4)核分裂生成物の除去などの再処理施設の設置が必要などの特徴を有する。
2.3 構造材料
 構造材料としては、燃料塩に直接接触する原子炉容器、配管、熱交換器、ポンプ等は全て燃料塩との共存性に優れたNi基合金である改良型Hastelloy Nが用いられる。溶融塩の蒸気圧は低いので構造設計は容易である。炉心での中性子減速材としては黒鉛が用いられる。ORNL設計のMSBRでは、中性子による照射損傷のために炉心中央部の黒鉛は4年毎に交換が必要とされている。また、溶融塩に含まれる核分裂生成物が溶融塩とともに1次系を循環するので、核分裂生成物から発生する中性子により1次系配管系が放射化されることになるので、点検・保守時の被ばく防止には遠隔操作などを行うことが必要となる。
2.4 溶融塩炉の運転特性
 核分裂生成物の精製、核燃料物質の補給を連続的に行うことができるので、固体燃料のように炉心内の燃料量を多くすることが不要となる。このため、核分裂反応の制御は容易(制御棒数を減らせる)である(文献5)。また、燃料塩の不均一、局所的な過熱、Xe蓄積効果などがなく、また、 黒鉛の温度係数は正であるが、燃料塩に対する反応度の温度係数が十分に大きな負の値を持つため、炉心総合では負の温度係数であり、出力制御は容易である。
2.5 安全性
以下のような特徴を有する。
(a) 固体燃料のような燃料被覆管の照射損傷の必要がないので、燃料破損に相当する問題はない。(b) 炉心の燃料量が少ないために余剰反応度が小さく、臨界事故などの苛酷事故の可能性は本質的にないと考えられる(文献5)。1次系の燃料塩全量がドレンタンクに排出されてもドレンタンクでは黒鉛減速材がないので再臨界事故にはならない。(c) 燃料塩、2次系塩ともに化学的に安定であり、空気・水との激しい化学反応はない。また、融点以下では安定なガラス状に固化する。(d) 燃料塩が1次系を循環する間に核分裂生成物は容易に分離除去できるため放射能残量を少なくできるので、事故時の施設外部への放射能流出の危険性は少ない。(e) 燃料塩中の成分元素であるリチウム(Li)と中性子との核反応によりトリチウム(T)が生成する。トリチウムは高温では金属を容易に拡散透過するので、1次系交換器を通じて2次系へ移行する。移行したトリチウムは2次系冷却塩(NaF−NaBF4)に99.9%捕獲されることがMSREで確認されたが、システム設計においてトリチウムの処理に十分配慮することが必要である。
2.6 核拡散抵抗性、核テロ対策
 溶融塩炉は、その特性上燃料塩の取扱い、輸送、化学処理等が固体燃料炉と比較して量的、質的に極めて限定されるため、核拡散抵抗性、核テロ対策にはとくに優れていると言える。
3.溶融塩炉の設計例
3.1 溶融塩実験炉(MSRE:Molten−Salt Reactor Experiment) (文献1)
 本炉は米国ORNLにおいて、当初高い増殖性能を得るために2流体2領域炉(炉心部に燃料塩を流し、その外周部にブランケットとしての溶融塩を各々独立に流す方式)として炉心部の実験用に計画された。その概略仕様を 表2 に、原子炉システムのレイアウトを図1に示す。本炉は1965年初臨界から1969年運転停止までの4年間の総運転時間は17,665時間、全出力運転時間は13,172時間の実績を残し種々の技術的成果をあげた。この間U−235, U−233およびPu添加U−233による運転が行われ、溶融塩炉がこれらの核燃料のどれでも運転可能であるという柔軟性を実証した。
3.2 溶融塩増殖炉(MSBR: Molten−Salt Breeder Reactor) (文献1、2、3、)
 米国ORNLはMSREの成功を踏まえ、トリウムを親物質とし核分裂性物質U−233を炉内で燃焼する以上に生産する商用発電炉として、熱出力2250MWt(電気出力1000MWe)の1流体2領域溶融塩増殖炉MSBRの概念設計を1971年に完成させた。システムの概念は 図2 に示されるもので設計仕様を 表3 に示す。
 本炉は液体燃料炉の特徴を活かし、連続再処理施設を原子炉一次系に直結させている。増殖比は1.06、実効倍増時間は21年となっているが、炉心黒鉛の交換が4年毎に必要なことであり、連続再処理施設の工程には多くの開発要素がある。本計画は米国政府の増殖炉凍結政策とも重なって1976年に計画は中断されている。
3.3 わが国における設計検討の状況
 わが国においては、古川等によって溶融塩炉の設計検討が進められている(文献4)。設計における基本的な考えはエネルギーの長期利用の観点からトリウムの有効利用を図る(Th−232→U−233に変換して核分裂性物質として利用)もので、小型発電用原子炉FUJI−series(FUJI−II:154MWe,miniFUJI−II;7MWe)や、Th−232→U−233変換を考えた加速器駆動型炉(AMSB等)の提言が行われている。FUJI−IIの原子炉の設計仕様を 表4 に、 図3 に原子炉システムの構成図を示す。
4.今後の課題、展望
 溶融塩炉は豊富なトリウム資源の利用や核拡散抵抗性に優れているほか、高温での熱の利用、オンラインの再処理の実施の可能性等の特徴を有する。米国のMSREでの運転実績により基本的な技術の実証が行われたものの、実用化にはいくつかの技術開発、実証等が必要とされている。
 米国で2002年9月に報告された第四世代原子炉システムの推進計画における研究目標の検討書(文献6)によれば、今後本炉の開発において解決すべき技術的課題として以下のような事項が指摘されている。
 −溶融塩におけるアクチノイド等の物質の溶融特性
 −溶融塩燃料の化学的な寿命特性、再処理、精製、廃棄物の最終処分
 −構造材料の健全性、信頼性、寿命等の研究
 −黒鉛材料技術、安定性実証等
 −トリチウムの制御技術等
<図/表>
表1 代表的な燃料塩の物性値(MSBRの例)
表2 MSRE(ORNL)の主要特性値
表3 溶融塩増殖炉MSBRの設計仕様
表4 ”FUJI−II
図1 MSRE(ORNL)のレイアウト
図2 溶融塩炉の概念(MSBR・1000MWe
図3 15万kWe小型溶融塩発電炉(FUJI)鳥瞰図

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<関連タイトル>
トリウムを用いた原子炉 (03-04-11-01)
宇宙炉 (03-04-11-03)
プルトニウム生産炉 (03-04-11-04)
地域暖房炉(熱供給炉) (03-04-11-06)
海上立地浮体式原子力発電所 (03-04-11-07)
低減速スペクトル炉の炉概念 (03-04-11-09)
低減速軽水炉の研究開発 (03-04-11-10)

<参考文献>
(1) 溶融塩増殖炉研究専門委員会報告書「溶融塩増殖炉」,日本原子力学会(1981)
(2) Rothental, et al., ”Development Status of Molten−Salt Breeder Reactors”, ORNL−4812(1972)
(3) Engel, J.R., et al., ”Conceptual Design Characteristics of a Denatured Molten−Salt Reactor with Once−Through Fueling”, ORNL/TM−7207(1980)
(4) Furukawa, K., et al., ”Summary Report.: Thorium Molten−Salt Nuclear Energy Synergetics”, J. Nucl. Sci. & Tech., Vol.27, No.12, p.1157−1178(1990)
(5) Shimazu Y.,”Nuclear Safety Analysis of a Molten Salt Breeder Reactor”, J. of Nucl. Sci. & Tech., Vol.15, No.7, p.514−522(1978)
(6) USDOE/NERAC/ Subcommittee on Generation IV Technology Planning,”A Technology Road Map for Generation IV Nuclear Energy System”(Sept.23,2002)
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