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<概要>
 1977年の米国の核不拡散強化政策発表後、濃縮ウランを米国から全面的に供給されているわが国としては、その安定確保と国の不拡散政策に従うとの立場から、研究炉・試験炉燃料のウラン濃縮度低減化に取り組むこととし、1978年より原子炉ごとに検討を開始した。
 高濃縮ウランを使用している研究炉・試験炉の燃料要素の設計を大幅に変更せず、すなわち研究炉の性能を変えず、低濃縮ウラン(ウラン235の濃縮度20%未満)に切り換えるには、燃料芯材中のウラン含有量の高密度化に懸っている。このため、従来のU-Al合金燃料(最高ウラン密度0.75g/cm3)に代わって、アルミナイド(UAlx、最高ウラン密度2.3g/cm3)およびシリサイド(U3Si2、最高ウラン密度4.8g/cm3)をアルミニウム中に均一分散させた燃料の開発が進められた。その結果、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の研究炉・試験炉(JRR-2,-3,-4およびJMTR)は、これらの燃料を使用し、従来の炉心とほぼ同等の性能を持つ炉心へ変更することができた。
 しかし、シリサイド燃料再処理の困難性が明らかとなり、燃料サイクルを完結するために、U-Mo合金分散型燃料の製造技術の開発が必要となってきた。
<更新年月>
2005年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 研究炉用燃料にはこれまでウラン濃縮度90%程度の高濃縮ウランが使用されてきた。これは、炉心体積を小さくして出力密度を高め、炉心および反射体領域内の中性子束を高くすること、すなわち研究炉の使用目的が中性子の利用にあることによる。しかし、高濃縮ウランは核兵器への転用が容易なことから、転用し難い20%未満の低濃縮ウランを研究炉に使うべきという政策が米国より提唱された。ここに、全世界中の高濃縮ウランを使用している研究・試験炉燃料の濃縮度を低減化する計画RERTR(Reduced Enrichment for Research and Test Reactors)が誕生した。以下にその経緯および高密度低濃縮ウラン燃料の開発の概略を示す。
2.研究炉燃料濃縮度低減化の経緯
2.1 カーター政策
 1977年4月、米国カーター大統領は核不拡散の政策を打ち出し、ウランの供給にあたっては、被供給国の燃料濃縮度低減化努力を条件にするとの方針を示した。そして、米国は、研究炉燃料濃縮度低減化について国際的なコンセンサスを得るため、INFCE(International Nuclear Fuel Cycle Evaluation)において検討することを提唱した。
2.2 INFCEにおける検討
 1978年から1980年にわたるINFCE 作業において、原子炉の安全性や性能を低下することなく、かつ、炉心構造や燃料形状等の変更および運転コストの上昇を最小限にとどめるという条件下で、ウラン濃縮度の低減化の可能性が検討され、つぎの結論が得られた。
 一部の高中性子束炉を除き大部分の炉において、45%程度のウラン235濃縮度に転換することは、近い将来可能である。しかし、20%程度の低濃縮燃料への転換には、さらに数年の高密度燃料製造の技術開発を必要となる。
2.3 試験・研究炉用燃料濃縮度低減に関する国際会議
 米国の提唱により、研究・試験炉燃料の濃縮度低減化(RERTR: Reduced Enrichment for Research and Test Reactors)を関係各国の協力のもとに技術開発することおよび情報交換を行うことを目的に、第1回のRERTR国際会議が1978年11月に米国ANLにおいて開催された。
 本会議において、米国エネルギー省は、核不拡散の観点から研究・試験炉燃料のウラン濃縮度低減化が必須であること、また燃料開発に関しては、短・長期計画に分け、それぞれ45%濃縮ウラン(MEU:Medium Enriched Uranium、中濃縮ウラン)燃料および20%未満濃縮度ウラン(LEU:Low Enriched Uranium、低濃縮ウラン)燃料を開発して行くという方針を打ち出した。
 この方針に沿い各国は、研究・試験炉の燃料濃縮度低減化のため、高ウラン密度燃料製作技術の開発、燃料照射試験、照射後試験、核・熱計算コードの整備等を開始した。米国は加えて再処理技術の開発を行った。
 RERTR国際会議はその後毎年1回開催されており、2003年の米国シカゴでの会議が通算で25回目である。
2.4 レーガン政策
 米国内における高濃縮ウラン(HEU:High Enriched Uranium、93%濃縮ウラン)使用に伴うリスクを減少させることおよび米国外における高濃縮ウラン使用減少への努力を支援することを目的に、1986年3月、unique purpose(後述)を立証しない限り、NRC(米原子力規制委員会:Nuclear Regulatory Commission)管轄の研究・試験炉においては高濃縮ウランの使用を制限する規制が制定された。また、海外炉についても、NRCがunique purposeであることを認めれば高濃縮ウランの供給をする方針を打ち出した。
 高濃縮ウランの使用にあたってunique purposeであるということは、高濃縮ウラン燃料なしには合理的に達成できないプロジェクト、計画または商業活動を指し、下記のようなものをいう。
(1)米国の国益に合致し、高濃縮ウラン燃料なしには達成できない特定の実験、計画または長期にわたる商業活動
(2)高濃縮ウラン燃料の使用を前提とした原子炉物理研究または原子炉開発
(3)高濃縮ウラン燃料を使用してのみ得られる中性子束またはスペクトルを用いた研究プロジェクト
(4)高濃縮ウラン燃料なしには意図した機能を発揮することのできない特別な原子炉
2.5 日本の対応
 京都大学は、1978年5月、京都大学研究炉(KUR:Kyoto University Reactor)の燃料を20%未満への濃縮度低減化を目指してANLとの共同研究を開始した。
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)においても、米国から全面的に供給されている濃縮ウランの安定確保を図るため、また国の核不拡散政策の立場から研究・試験炉の燃料濃縮度低減化に取り組むこととし、1978年から研究・試験炉ごとの検討を開始するとともに、1979年5月には濃縮度低減化を推進するため所内関係者による「中濃縮ウラン対策プロジェクトチーム」を設置した。更に、濃縮度低減化をより円滑に進めるため、1980年からANLとの共同研究を開始し、1994年9月まで継続した。
 なお、1978年6月には、日本の研究炉用高濃縮ウラン確保に関して関係機関が連携して適切な対応を図るため、「高濃縮ウラン問題検討会」(科学技術庁(現文部科学省)、外務省、文部省(現文部科学省)、京都大学、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)で構成)が設けられ、1999年8月までに87回の会合が開かれている。
3.高密度低濃縮ウラン燃料の開発
 高濃縮ウランを使用している研究・試験炉の燃料を燃料要素の形状を大幅に変更せず低濃縮ウランに切り換えるには、燃料芯材中のウラン含有量をいかに高めるかにかかっている。このため、従来のU-Al合金燃料(最高ウラン密度0.75g/cm3)に代わって、アルミナイド(UAlx)、オキサイド(U3O8)およびシリサイド(U3Si2)をアルミニウム・マトリックスに分散させたAl分散型板状燃料製造の技術開発が進められた。
 これら燃料の開発は、先ずミニプレートおよびフルサイズプレートの照射試験により特性を調べ、ついで燃料要素の照射試験、全炉心実証試験を行い健全性を確認する手順で実施され、1980年頃から本格的に開始された。UAlx-Al燃料ではウラン密度2.3g/cm3、U3O8-Al燃料では3.2g/cm3までの分散型板状燃料の製造技術が開発され、その健全性が確認された。
 米国は、1988年9月に開催された第11回RERTR国際会議において、同年6月NRCがORR(Oak Ridge Research Reactor)等で実施されたミニプレートおよびフルサイズ燃料要素の照射試験、並びに全炉心実証試験の結果に基づいて、ウラン密度4.8g/cm3までのU3Si2-Al分散型板状燃料は十分な安全性を持って試験・研究炉で使用できると判断し、NRC管轄の研究・試験炉における上記燃料の使用を正式に認めたと報告した。更に、本報告においては、使用条件がORRにおける照射試験条件より厳しい炉での上記燃料の使用に際しては、燃料の健全性等について更に検討する必要がある。また、U3Si燃料を使用する際は、燃焼度制限する必要があると述べている。
 ANLは、ウラン密度4.8g/cm3のU3Si2燃料の出現によって、HEU燃料を使用している試験・研究炉の約90%は低濃縮化でき、このため今後の燃料開発の主テーマとして、残り10%のHEU燃料を使用する研究炉の低濃縮化を可能とする高密度LEU燃料(U3Si、U3SiCu等)実用化の技術開発を進めていると上記の第11回会議において報告した。
 表1に現在、世界の主な研究・試験炉で使用されている分散型板状MEU・LEU燃料の材質およびウラン密度などをまとめて示す。
 シリサイド燃料の再処理の困難性が明らかとなり、燃料サイクルを完結するために、再びANLが中心となり、ウラン密度を6〜7g/cm3以上に高めたUMo合金(Mo:5-10%)-Al分散型燃料の技術開発が、米国(ANL)、フランス(CERCA社)、韓国(KAERI)などで現在(2000年以降)進められている。
4.日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))の濃縮度低減化計画への対応
 1978年の米国政策発表直後から、濃縮度低減化に取り組み、各炉の実情に基づいたスケジュールにより濃縮度低減化を開始した。各炉の低減化の経緯は以下のとおりである(図1−1および図1−2参照)。
(1)JRR−2
 1987年11月に中濃縮度UAlx-Al燃料(ウラン密度1.6g/cm3)による全炉心実証試験を実施し、その後この燃料によって順調に運転を続け、1996年の12月運転を終了し、解体措置を開始した。現在、解体撤去作業が進行中である。
(2)JRR-3
 原子炉の改造にあたり、当初中濃縮度UAlx-Al燃料の使用を予定していたが、その後の燃料の開発によって低濃縮度のUAlx-Al燃料(ウラン密度2.3g/cm3)の健全性等が明らかとなり、燃料製造上にも問題のないことが明らかになり、米国の主張を受け入れ、低濃縮度のUAlx-Al燃料を使用することとした。1990年3月に改造炉(JRR-3M)の初臨界を達成し、順調に運転を続けた。その後、1999年9月に低濃縮度のU3Si2-Al燃料(ウラン密度4.8g/cm3)炉心に変更し、初臨界に達し、特性測定を経て共同利用運転に入った。現在順調に運転を続けている。UMo合金燃料への移行も検討されている。
(3)JRR-4
 高濃縮度ウラン燃料から、中濃縮度ウランを経ないで直接低濃縮度ウラン燃料へ変更する計画をとり、U3Si2-Al燃料(ウラン密度;内側3.8、外側1.9g/cm3)により1998年7月に初臨界に達した。その後、試験利用運転を経て、現在順調に共同利用運転を行っている。
(4)JMTR
 1986年6月に中濃縮度のUAlx-Al燃料(ウラン密度1.6g/cm3)による全炉心実証試験を実施し、順調に運転を続けた。その後、1994年1月に低濃縮度のU3Si2-Al燃料(ウラン密度4.8g/cm3)炉心へ移行し、現在順調に運転を続けている。
<図/表>
表1 世界の低濃縮度燃料を使用した主な研究・試験炉
表1  世界の低濃縮度燃料を使用した主な研究・試験炉
図1−1 原研の研究・試験炉の濃縮度低減化の歴史(1978〜1988年度)
図1−1  原研の研究・試験炉の濃縮度低減化の歴史(1978〜1988年度)
図1−2 原研の研究・試験炉の濃縮度低減化の歴史と予定(1989〜1999年度)
図1−2  原研の研究・試験炉の濃縮度低減化の歴史と予定(1989〜1999年度)

<関連タイトル>
研究炉の概要 (03-04-01-01)
研究炉のあり方検討報告 (03-04-01-05)
JRR-3(JRR-3M) (03-04-02-02)
JMTR (03-04-02-04)

<参考文献>
(1)「極限燃料技術」研究専門委員会:核燃料工学、日本原子力学会(1993年11月)、p.285−304
(2)A.Travelli: STATUS OF THE RERTR PROGRAM, Proc. 11th Int. Mtg. on Reduced Enrichiment for Research and Test Reactor,San Diego,September,1988
(3)Proc. 20th Int. Mtg. on Reduced Enrichiment for Research and Test Reactor, Jackson Hole,Wyoming,October 5-10,1997
(4)Proc. 21th Int. Mtg. on Reduced Enrichiment for Research and Test Reactor,Sao Paulo,Brazil,October 18-23,1998
(5)Proc. 25th Int. Mtg. on Reduced Enrichiment for Research and Test Reactor,Chicago,October 6-10,2003
(6)Transactions of 7th International Topical Meeting,Research Reactor Fuel Management,Aix-en-Provence,France,March 9-12,2003
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