<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 高温ガス炉
<小項目> 海外の高温ガス炉開発
<タイトル>
ペブルベッドモジュール炉(PBMR) (03-03-07-03)

<概要>
 ペブルベッドモジュール炉(PBMR)とは、南アフリカ国営電力会社ESKOMが自国に導入を計画している、原子炉出口温度900℃、電気出力165MWのペブルベッド型閉サイクルガスタービン発電商用高温ガス炉である。技術的には、ドイツのペブルベッド型を採用しており、1993年から検討が始められたものである。概念設計、コスト評価、政府によるレビューを経て、1998年に設置許可申請が行われた。2010年にPBMR実証機(電気出力165MW)を建設する計画である。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
1.開発の背景
 南アフリカ共和国(以下、南ア)がPBMR(Pebble Bed Modular Reactor)を導入しようとしている背景は種々あるが、一般的に言われていることは、以下のとおりである。
(1)アパルトヘイト政策から脱却し、国際社会に復帰した南アは、今後アフリカの先進国としての役割を演じることになる。そのため高い経済成長が見込まれ、結果としてエネルギー需要の増加が予想される。PBMR計画が検討されだした1990年代初期の経済成長率は、試算で年10%弱である。現在の経済成長率は減少している。
(2)エネルギー供給源として特に電力の不足が懸念され、電力の供給が国家として重要な課題と認識している。電力源としては、全てのオプションが対象でありその中で経済性を最優先して考える。
(3)電力源として最有力候補(最も経済的と考えられる候補)は、石炭火力であるが、石炭産出地(南ア中北部)と電力需要地(ケープタウン沿岸)との距離を考慮すると、石炭輸送費が嵩む(約2000kmの距離)ためコストが割高となる。予備評価の結果、最適なものはモジュラー型高温ガス炉であるとの結論になった。しかし、将来にわたる電力需要の大幅な伸びに対応するために、2,000万kWの原子力発電を2025年までに導入する計画を立て、100万kW級の軽水炉の導入も視野に入れていた。ところが、2008年の米国でのサブプライムローンに始まる世界的な金融危機の煽りを受け、資金面での見通しが厳しくなり、軽水炉導入の計画は中断することとなり、当面の原子力発電については、モジュラー型高温ガス炉PBMRの2010年建設着工に集中することになった。
(4)その他にモジュラー型高温ガス炉を導入する根拠として、1基当たりの出力が小さいため、需要増加に合わせて適切に対応できる。また工期が短い(2−3年)ため、需要予測の変動にも対応可能である。大型炉では、建設準備から稼動までの期間が10年程度と長期にわたるため、中期を考慮した導入として捉え、目前の電力需要への対応には、モジュラー型高温ガス炉の導入を目論んでいる。
(5)南アの社会的要請として失業対策がある。モジュラー型高温ガス炉では、小型であるために定常的に建設基数を確保でき、長期的に安定した雇用が期待できる。根拠は不明であるが、PBMR計画の推進により、5%以上の失業対策が見込めるとしている。大型炉の建設では、一時的に大幅な雇用は確保できても基数が少なくなるために長期的な雇用に対しては安定しない。従って、PBMR計画は公共事業の性格を帯びている。南ア政府が同計画を支持している1つの理由として、公共事業的性格を重要視している。
(6)ドイツでは、ペブルベッド燃料を用いた高温ガス炉開発を早くから進めてきており、発電用実験炉AVR(熱出力:46MW、電気出力:15MW、定格運転期間:1967〜1988年)、発電用原型炉THTR-300(熱出力:750MW、電気出力:300MW、定格運転期間:1986〜1989年)の建設および運転経験を有している。このため、既存技術で開発することが可能と考えられる。開発理念として、新たなR&Dは極力少なくしできる限り早期に建設できるとしている。
2.原子炉システムの概念と特徴
 原子炉システムの主要な仕様と概念を図1に示す。図に見られるように、高い発電効率約45%を持った、全電気出力165MWのペブルベット型環状炉心(事故時の原子炉中心温度を低く抑えるために、炉心中央部を燃料の入っていないダミー燃料黒鉛球とした炉心)の原子炉である。発電タービンは初期には、縦型を考えていたが、検討の結果、横型(*1)ブレイトンサイクル(*2)ガスタービン発電である。また再処理は行わず使用済燃料はプラントサイトに長期保管することとしている。
 その他の特徴としてPBMRの利点は、以下のとおりである。
(1)経済性:数値の根拠に不確定要素があるものの、発電単価2cent/kWhである。これは、南アの安い労働力、国際自由競争価格を導入して評価したもので、先進諸国のコスト評価では、その倍になるという試算もある(図2)。それでも、経済的には十分競合できる数値であるという。
(2)安全性:受動的安全性を有している。いかなる事故を想定しても炉心溶融はなく、住民避難を必要としないとしている。
(3)運転容易性:上記の安全性に関係するが運転員の負担が軽く、開発途上国でも比較的容易に導入できる。このため、1プラントとして8基程度のモジュールを設置し、全体を数人の運転員が監視するという設計を提示している。技術的に可能であっても、この考えがそのまま先進諸国に通じるかは、意見の分かれるところである。
(4)小型・モジュール:初期投資が少なく、開発および建設のリスクが少ない。これは、電力自由化が進みつつある低成長の時代の先進諸国にも受け入れられる利点である。
 一方、欠点、問題点も指摘されている。それらは以下のとおりである。
(1)ガスタービン技術:実証された技術ではないので、性能に不確定要素がある。ガスタービンそのものの技術は、化石燃料プラントではあるが、原子炉に用いるヘリウムガス閉サイクルではドイツにおいては炉外のR&D経験があるものの、実炉では経験がない。しかも、熱出力400MWといった大型のものはこれまでに経験がない。このため、PBMR計画では、第1号機を実証プラントと位置付け、受動的安全性の実証を含むガスタービン技術の実証も行う計画である。
(2)社会的受容:格納容器の削除など、受動的安全性を生かした簡素な設計となっているために、社会的な理解と受容が得られるかどうかが課題である。
3.開発の経緯と現状
正式にプロジェクトが発足したのは1999年にPBMR社が設立されてからである。それ以前は、1.に示した背景をもって、ESKOM社が国内の技術会社およびドイツを中心とした欧州の高温ガス炉開発経験のある研究者、技術者を集め、1990年代初期から検討が行われてきた。PBMR社は、設計を担当するTECH社、建設を担当するPLANT社、および燃料製造を行うFUEL社から構成されている(図3参照)。PBMR社には、以前に英国BNFL社が海外資本参加をしていたが、BNFL社が保有していたWH社を(株)東芝が買収したことにより、(株)東芝がWH社の資本参加企業の形で加わっている。また日本から三菱重工業がベンダー(ガスタービンと炉心槽を受注)として参加している。
4.今後の建設スケジュール
 2003年6月にEIA(Environmental Impact Assessment)が承認され、建設プロジェクト開始を2004年10月に公式宣言した。しかし、着工は大幅に遅れており、現在2010年の着工予定である。

[用語解説]
(*1)横型:高温ガス炉ガスタービン発電システムの配置には、縦型と横型が考えられる。横型は、化石燃料発電システム等、建設、運転の実績が多くあるが、配置スペースの関係上原子炉建家が大きくなる欠点がある。一方縦型は、配置上はコンパクトになるが実績が少なく、軸受けについての実証性が特にヘリウムガスタービンではない。PBMRでは、配置スペースの関係上、縦型を採用する計画であったが、その後ヘリウムガスタービンでの実証経験がないことのリスクを理由に、横型に変更することになった。
(*2)ブレイトンサイクル:熱を仕事に変換する熱機関において、ガスを作動流体とする場合の理想的なサイクルである。なお、蒸気を作動流体とする場合は、ランキンサイクルであり、すべてのサイクルの中で最も高い熱/仕事変換効率を与えるサイクルがカルノーサイクルである。
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
図1 PBMRの概念および主要緒元
図2 国別の電力小売価格
図3 PBMR計画の実施組織

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
海外における高温ガス炉運転実績 (03-03-03-03)
海外における高温ガス炉の研究開発 (03-03-07-01)
海外における高温ガス炉開発の経過と計画 (03-03-07-02)
南アフリカPBMRの建設構想 (03-03-07-04)

<参考文献>
(1)IAEA:”Technical Committee Meeting on High Temperature Gas Cooled Reactor Technology Development”,Technical Committee Meeting,South Africa,Nov.(1996)
(2)ESKOM:”Technical Description of the Pebble Bed Modular Reactor”(1999)
(3)ESKOM社:”10万kWの高温ガス炉建設の検討”、原産マンスリー、No.28 Feb.(1998)
(4)“南アフリカの原子力の現状”、原産マンスリー、No.54 Jul.、p35−41(2000)
(5)PBMR:http://www.pbmr.co.za/
(6)A.Koster,et al.:“PBMR design for the future”,Nuclear Engineering and Design,p.222,p231−245(2003)
(7)H.L.Brey:“The Evolution and Future Development of the High Temperature Gas Cooled Reactor”,GENES/ANP 2003,Kyoto,Japan,Sep.(2003)
(8)塩沢周策、土江保男ほかによる私信:国際会議等により収集した個人情報をまとめたものを参照した。
(9)原子力ハンドブック:(株)オーム社(2007年11月20日)、p.512(2007)
(10)月刊エネルギー:(株)日本工業新聞新聞新社、Vol.42 2009年1月号、p.55(2009)
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