<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 高温ガス炉
<小項目> 高温ガス炉を用いた核熱利用
<タイトル>
高温ガス炉による核熱エネルギー利用の拡大 (03-03-05-01)

<概要>
 高温ガス炉は、最高約950℃の高温の熱が取り出せるので、高効率発電が可能となるばかりでなく核熱エネルギーを多くの工業プロセスにも広く利用することができる。発電への利用では、蒸気サイクルで約40%、閉サイクルガスタービン発電では45%を超える高い熱効率が得られる。非電力分野への利用では、石炭のガス化・液化や製鉄業における鉄鋼石還元のための還元ガスの製造と加熱、化学工業におけるエチレン分解やアンモニアのスチームリフォーミング、さらには、自動車、ロケット、燃料電池の燃料となり、究極のクリーン・エネルギーといわれる水素の製造などに利用できる。そして、高温を必要とするプロセスでの利用の後、蒸気発生などの中温プロセスに利用し、さらに低温となった熱を、海水淡水化や地域暖房などにも利用するという熱のカスケード利用により核熱エネルギーを広い範囲で多目的に利用することもできる。
<更新年月>
2006年09月   

<本文>
1.はじめに
 高温ガス炉は、原子炉冷却材にヘリウムガスを、燃料にセラミックス被覆の被覆燃料粒子を用いることにより、最高約950℃の高温の熱が取り出せ、発電のみならず他の多くの工業プロセスにも広く利用できる。各種産業で利用される熱源の温度領域を図1に示す。これと高温ガス炉の出口温度レベルとを組み合わせ、高温ガス炉による核熱エネルギーの利用分野が原子炉出口冷却材温度によってどのように拡大することが期待されるか図2にまとめて示す。以下、各々の利用に関し概略を説明する。
2.高効率発電への利用
 発電への利用では、在来火力発電並の蒸気条件の蒸気タービン発電で約40%の熱効率が得られるが、原子炉出口冷却材温度が約850℃以上ではガスタービン発電により45〜50%の熱効率が得られる。閉サイクルのヘリウムガスタービンを高温ガス炉と結合させて、大規模な発電を行うための研究開発は、中期的なプログラムとして、ドイツでGHH社が50MW級の閉サイクルガスタービンの開発を行い、またユーリッヒ原子力研究所(KFA:Kernforschungsanlage)、HRB社(Hochtemperatur−Reaktorbau−GmbH)が中心となってHHT計画(HHT:HTR auf Helium−Turbine、発電端出力660MW)を進めてきたが、いずれも経済性の見通しが立たなかったこと、原子力に対する国民の十分な理解が得られなかったことなどにより、計画は中断された。その後、大幅な経済性を確保する概念として、モジュラー型直接サイクルガスタービン発電高温ガス炉システムが構築され、現在では、発電用高温ガス炉の主流になっている。2006年現在、南アフリカ共和国の国営電力会社ESKOM社は、同国ケープタウン市近郊にペブルベッドモジュール型高温ガス炉(PBMR:Pebble Bed Modular Reactor)の建設を計画しており、デモンストレーション機(電気出力:110MW)の運転開始を2013年に予定している。その後、電力需要に応じて複数の同型モジュールを追加していく予定である。また、わが国では、日本原子力研究開発機構において電気出力274MWのヘリウムガスタービン発電炉GTHTR300、電気/水素のコジェネレーション高温ガス炉GTHTR300Cの設計が行われている。中国では、蒸気タービンによる発電炉HTR−PMの建設を検討している。
3.発電以外の分野への利用
 発電以外の利用では、得られる温度により、石炭のガス化・液化、軽質炭化水素の水蒸気改質、これにより得られた還元ガスによる鉄鉱石の直接還元やメタノール製造、高温水蒸気電解あるいは熱化学法による水素製造、酸化アルミニウム製造等が考えられる。また、高温ガス炉によって生成される高温蒸気を、これらの産業が必要とする電力と蒸気の供給や油田からの重質油の回収などに利用できる。これらの中で、近年、最も注目されている利用法が水からの水素製造(高温水蒸気電解あるいは熱化学法)である。近い将来に起こる急激な水素需要の増加に対し、二酸化炭素を排出しない大量かつ安定な水素製造システムとして期待されており、米国のNGNP(Next Generation Nuclear Plant)計画や第4世代原子力システム研究開発として、国際的な研究協力が進められている。
(1)石炭ガス化・液化
 石炭は他の化石燃料(石油、天然ガス)に比べ輸送・貯蔵・取扱いに不便で、しかも燃焼に伴うばいじん、硫黄酸化物、窒素酸化物等の環境汚染の面でも不利である。しかし、石油、天然ガスの約50倍の埋蔵量があるといわれており、この石炭を環境負荷のより小さく、輸送等取扱いの容易な流体燃料に変換することは環境問題およびエネルギー問題の軽減に役立つ。石炭のガス化・液化は、水蒸気または水素と石炭を高温の熱を利用して化学反応させるものであり、ガス化では水素と一酸化炭素を生成した後メタンを製造し(図3)、液化では直接メタンを製造する。この熱源として高温ガス炉の核熱を利用するものである。これにより低品位の褐炭や亜炭からも輸送・取扱いに便利な気体あるいは液体燃料が製造できる。
 石炭のガス化の技術開発は各国で行われてきているが、特にドイツでは、豊富な褐炭を高温ガス炉の熱でガス化、液化するPNP(Prototype Nukleare Prozesswarme)計画により基本技術の開発を行った。この中で、10t/hのパイロットプラントの運転経験を有している。
(2)水蒸気改質とケミカル・ヒートパイプ
 水蒸気改質は炭化水素化合物に高温の水蒸気を反応させて水素、一酸化炭素のような還元ガスを生成するもので、この還元ガスを鉄鉱石の還元などに直接用いたり、還元ガスからメタノールや水素の製造に用いるものである。
 また、水蒸気改質を利用した熱輸送システム(ケミカル・ヒートパイプ・システム)としてドイツのADAM−EVAシステムがある。図4にADAM−EVAの概念図を示す。
(3)原子力製鉄
 原子力製鉄は、図5にシステム概念を示すとおり、熱源として原子炉からの熱を用い、還元ガス原料として減圧残渣油(アスファルト)を採用し、還元ガス(H2+CO)の製造、およびその加熱を行ってシャフト炉で鉄鉱石を直接還元するクローズドシステムである。高温ガス炉からの核熱は、中間熱交換器を介して、水蒸気改質器、蒸気加熱器、還元ガス加熱器等へ廻されて、還元ガスの製造、同加熱、高温蒸気の発生に用いられる。蒸気は減圧残渣油の水蒸気分解やピッチのガス化等にも使用される。この方法が導入されると、現在の高炉製鉄法に伴う原料炭依存からの脱却、大量かつ多様のエネルギー消費の低減、また化石燃料消費による公害問題の解決に役立つ。このため、わが国では「高温還元ガス利用による直接製鉄技術の研究開発」の名のもとに、原子力製鉄の研究開発が通産省工業技術院(現独立行政法人産業技術総合研究所)の大型プロジェクトの一つとして1973年から実施され、原子炉に接続する直接製鉄パイロットプラントの実現に必要な要素技術を確立し、1980年に終了している。
(4)水素製造
 現在の水素の用途は主に化学工業(アンモニア合成、石油精製等)であり、需要量は約150〜200億Nm3/年である。これに対して、今後、自動車や定置用(家庭・業務)の燃料電池への急激な需要増が見込まれる。経産省による燃料電池用水素の需要予測は、2010年には73億Nm3/年、2020年には387億Nm3/年、2030年には544億Nm3/年であり、2020年には燃料電池の用途のみで現在の約2倍の消費量となる。高温ガス炉を利用した水からの水素製造は、二酸化炭素を排出せずに大量かつ安定に水素を製造できるシステムとして有望視されている。これらの水素製造法としては、高温水蒸気電解、熱化学法などがあり、NGNP計画や第4世代原子力システム研究開発に関連して各国で研究開発が行われている。高温水蒸気電解による水素の製造は、高温において酸素イオン導電性を示す固体電解質に、高温ガス炉で得られる熱により生成した高温の水蒸気を送り込んで水蒸気を電気分解するものである。熱化学法は、水以外の物質を関与させて数段階の化学反応を利用して水を分解するものであるが、必要な反応熱を高温ガス炉から供給するものである。化学反応に用いる反応物質により、硫黄系サイクル、鉄−ハロゲン系サイクル等に分類できる。鉄−ハロゲン系サイクルとしては東京大学のUT−3サイクルがある。硫黄系サイクルの代表的なものとして米国のGA社が提案したISプロセス図6)がある。ISプロセスは、ヨウ素(I)と硫黄(S)を循環物質として、硫酸とヨウ化水素の生成、ヨウ化水素の分解、硫酸の分解の3つの化学反応を組み合わせて水素を製造する方法である。また、米国のWestinghouse社は硫黄のみを循環物質として水素を製造するプロセスを提案しており、この方法では水と二酸化硫黄を反応させて水素を製造する工程においては電気分解を利用する。高温水蒸気電解、熱化学法を含めて、現時点で最も実用化に近い水素製造法はISプロセスで、主として日本、米国、仏国、韓国で研究開発が行われている。これらの国の中で最も技術開発が進んでいるのは日本(日本原子力研究開発機構)であり、2004年には世界で初めてISプロセスを構成する3つの化学反応を組み合わせ、1週間の連続水素製造(水素製造量:毎時約35リットル)に成功した。現在は、水素製造量が毎時30Nm3規模のパイロット試験に向けた研究開発を進めており、将来的にはわが国初の高温ガス炉HTTRに接続した実証試験を計画している。
(5)熱電併給システム
 熱電併給システムとしての高温ガス炉の魅力は大きい。石油化学工業では必要な反応熱を大量の天然ガスとナフサを燃焼させて得ているが、将来、これに代わって高温ガス炉の熱源が利用できれば、化石燃料の消費は大幅に削減できる。また、アルミニウム精錬では、大量の蒸気と電力を必要とするため、これを同時に供給できる高温ガス炉の利用が期待される。中国では、重質油回収に従来、生産量の1/3の石油を消費していたものを、高温ガス炉によって生成される高温高圧の水蒸気(540℃、190bar)を用いるとともに油田で必要とする電力を高温ガス炉によって賄うこと(勝利油田等)や、燕山石油化学工業コンビナートに多種条件の水蒸気と電力を供給する高温ガス炉の建設を考えている。高温ガス炉による石油化学工業への電熱併給プラントについてはドイツ、旧ソ連でも多数の検討例がある。また、ボーキサイトから酸化アルミニウムを製造するのに高温ガス炉による電力と熱を用いることを検討した例もある。
 以上のように、高温ガス炉は発電以外にも高温の熱エネルギーを産業用熱源として広く利用できるのが特徴である。この特徴を最大限活用すれば、原子炉から得られた高温の熱を必要温度の高いプロセスから段階的に利用することにより、極めて効率の良い熱の使い方を可能とすることができる。例えば水素製造、石炭ガス化等の高温プロセスに利用した後、一般工業、海水淡水化、地域暖房などに利用し、さらに下がったところで農業、漁業などに利用するなど、段階的に利用すると、熱の利用効率が飛躍的に高められ、省資源、省エネルギーに役立つばかりでなく、エネルギー多消費産業からの環境汚染物質の放出量を低減できる。
(前回更新:2001年9月)
<図/表>
図1 各種産業で利用される熱源の温度と高温ガス炉の利用範囲
図2 高温ガス炉システムにおける核熱利用の形態
図3 石炭ガス化プラント概念図
図4 核熱遠距離輸送(ADAM−EVA)の概念図
図5 原子力製鉄システムの概念図
図6 熱化学法による水素製造(ISプロセス)

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<関連タイトル>
高温ガス炉の発電炉としての適合性と将来性 (03-03-04-02)
高温ガス炉による核熱エネルギー利用の範囲と拡がり (03-03-05-02)
高温ガス炉の利用の仕方 (03-03-05-03)
高温ガス炉の利用によるコージェネレーション (03-03-05-04)
HTTRを用いた熱化学法ISプロセスによる水素製造研究開発計画 (03-03-05-05)

<参考文献>
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