<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 高速増殖炉
<小項目> 高速増殖炉の構造と特徴
<タイトル>
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)

<概要>
 高速増殖炉(FBR)のナトリウム冷却システムは、冷却材のナトリウムを熱媒体として炉心で発生した熱を輸送する熱輸送系であり、1次冷却系、2次冷却系の2系統からなる。冷却材ナトリウムは、約98℃〜 約883℃の温度範囲で液体状であり、原子炉での運転温度が550℃前後であることから、系内の圧力は常圧である。したがって、主要部がステンレス鋼で造られている冷却系の機器、配管などは薄肉構造で済む。一方、冷却系には、ナトリウム中の不純物による腐食を抑えるために、コールドトラップを含む純化系が必要である。また、機器内部のナトリウムの自由液面は、常に不活性ガス(アルゴンガス等)で覆う必要があり、ベーパトラップを含むカバーガス(アルゴンガス)系も不可欠な系統である。
<更新年月>
2010年09月   

<本文>
 高速増殖炉(FBR)の原子炉冷却の方式には、ループ型、タンク型(プール型とも云う)、およびハイブリッド型がある。図1に夫々の方式についてナトリウムが循環する1次冷却系と2次冷却系、ならびに水/蒸気系の主要機器位置関係を示す。
 ループ型は、原子炉容器に対して1次主循環ポンプとIHXが外にあるので炉容器の直径は小さくて済む。1000MWe級のFBRで直径約9mである。主要機器が炉容器の外にあるため、点検保守、整備が行いやすい利点がある。1次冷却系配管の引き廻しが長くなることと配管破断による原子炉容器からのナトリウムの漏出に対する対策が必要である。高速増殖原型炉「もんじゅ」はこの方式を採用している。
 タンク型は、主冷却系配管破断によるナトリウム漏洩を避けて1次主循環ポンプおよびIHXを積極的に原子炉容器内に持ち込み、1次系配管をなくした設計である。ループ型に較べ炉容器が大きくなり(直径約20m)、耐震構造強度上の配慮が必要となる。
 ハイブリット型は、この弱点を補うためのループ型とタンク型の折衷案で、炉容器は比較的小型(直径約14m)であり、炉容器外周囲にループ数に応じたナトリウム充填のタンク(サテライト容器)を設けて、1次主循環ポンプと中間熱交換器を収納した設計となっている。しかし、現在世界の原子炉で現実には採用されたものはない。
 以下に、高速増殖原型炉「もんじゅ」の原子炉冷却系のうち、1次および2次のナトリウム冷却系、ナトリウムの純度管理とカバーガス系について述べる。表1に「もんじゅ」の原子炉冷却系主要目、図2に「もんじゅ」のプラント全体図、 図3-1および図3-2に「もんじゅ」の冷却系を示す。
1.1次冷却系
 1次冷却系を構成する要素は、原子炉容器、1次系ナトリウムを循環させるための1次主冷却系循環ポンプおよび1次系ナトリウムの熱を2次系ナトリウムに伝達するIHXである。
 原子炉容器内での1次系ナトリウムの流れは、炉心燃料集合体脚部の側面にあるオリフィス孔から炉心に397℃で流入し、燃料集合体内を流れる。炉心内の温度分布が適正になるようにオリフィス孔の数が調節されていて、炉心におけるナトリウムの流れは、発熱量の大きい炉心中心部では大きく、発熱量の小さい周辺部では小さくなるように設計されている。各燃料集合体を流れるナトリウムは炉心上方で合流し、529℃となって原子炉容器出口ノズルからホットレグ配管を通ってIHXに流れる。IHX内で2次系ナトリウムと熱交換したナトリウムは、1次主冷却系循環ポンプで約8kg/cm2Gに加圧され、コールドレグ配管を通って原子炉容器に戻る。なお、コールドレグ配管の途中には、逆止弁および流量計が設置されている。1ループ当りのナトリウム流量は約5100t/hである。
 高温ナトリウムを循環するためのポンプには、機械式ポンプと電磁式ポンプがある。FBRのナトリウム循環ポンプには概して機械式ポンプが用いられる。
  図4 は「もんじゅ」の1次主冷却系循環ポンプの概略の構造を示したものである。ポンプは機械式縦型構造であり、ポンプ内のナトリウム自由液面の上部はカバーガス(アルゴンガス)で覆い、そのカバーガス部にフランジや軸貫通部を配置している。また、ポンプの軸長が非常に長い設計となっており、これはポンプを運転しなければならない最低のシステム液位(通常運転時液位)のときに、軸受やインペラが液中になることを確保するためである。
2.2次冷却系
 2次冷却系は、1次冷却系とともに原子炉熱輸送系を構成し、1次系ナトリウムからIHXを介して2次系ナトリウムに伝えられた熱を、過熱器と蒸発器からなる蒸気発生器において水・蒸気系に伝達する系統であり、高速炉特有のものである。2次冷却系を備える理由は、1次冷却系の中に直接蒸気発生器を置いた場合、万一蒸気発生器の伝熱管が破損する故障が生じた時にナトリウム・水反応が生じ、それによる衝撃圧力や反応生成物の影響を直接炉心にまで与えないためである。またIHXを介した2次系ナトリウムは放射化されていないので、水・蒸気系およびタービン系は非放射線管理区域として扱える利点もある。
 2次系ナトリウムは、2次主冷却系循環ポンプにより約5kg/cm2Gに加圧されてIHXの管側に入り、胴側を流れる1次系ナトリウムから熱を伝達され約505℃に加熱される。IHXを出た2次系ナトリウムは過熱器の胴側に入り、管側の蒸気と熱交換して約469℃となる。さらに2次系ナトリウムは蒸発器の胴側に入り、管側の水・蒸気と熱交換して約325℃となって2次主冷却系循環ポンプへ戻る。なお、2次冷却系は、IHXにおいて1次冷却系より高圧を維持し、1次系ナトリウムが2次系ナトリウム側に漏えいするのを防止している。
 2次主冷却系循環ポンプは、機械式縦型自由液面遠心式のポンプであり、蒸気発生器室内に据え付けられいる。蒸発器を出た2次系ナトリウムは、ポンプ下端の吸込みノズルからポンプに入り、インペラで加圧された後、ポンプケーシング側面の吐出ノズルから流出する。ポンプ内のナトリウム自由液面の上部はアルゴンガスにより覆われている。
 なお、2次冷却系には原子炉の崩壊熱を除去する補助冷却設備が設けられている。
3.中間熱交換器
 IHXは、放射能を帯びている1次系ナトリウムから放射能を帯びていない2次系ナトリウムへ熱を伝える熱交換器である。2次系ナトリウムから水・蒸気系へ熱を伝える熱交換器は蒸気発生器である。蒸気発生器で万一伝熱管が破損する故障が生じた場合、ナトリウム−水反応が発生するので、1次冷却材バウンダリの保全のし易さおよび蒸気発生器の補修の容易さなどを考えて、IHXが設けられている。
 「もんじゅ」のIHXを図5に示す。1次系ナトリウムは胴部側面の1次ナトリウム入口ノズルからIHX内に流入し、外側シュラウド上部に設けられている整流シュラウド入口窓から外側シュラウド内に流入し、伝熱管の間を下降しながら伝熱管内の2次系ナトリウムに熱を与える。温度の下った1次系ナトリウムは下部1次ナトリウム出口ノズルから流出する。一方、2次系ナトリウムは上部中央の2次ナトリウム入口ノズルから流入し、下降管を通って下部2次入口プレナムに入り、そこで流れは上方へと反転して、1次系ナトリウムから熱を受けながら伝熱管内を上昇する。上部2次出口プレナムに抜けた2次系ナトリウムは上部の2次ナトリウム出口ノズルから流出する。
4.ナトリウムの純度管理
 冷却材ナトリウム中の不純物を低濃度に制御することが、軽水炉の場合の水質管理と同様に重要である。ナトリウム中にはいろいろな不純物が微量に溶け込んでおり、なかでも対策上重要なのは酸素および水素である。ナトリウム中の不純物濃度が高いと、機器、配管などの材料は腐食されやすく、また温度の低いところでは不純物が析出し、小口径配管など狭いナトリウム流路を閉塞させる恐れもある。また1次冷却系では、放射性腐食生成物の低減化のためナトリウム中の不純物濃度をさらに低く抑える必要がある。このためにコールドトラップ(図6)による純化系が設けられている。
 FBRで使用するナトリウムは原子炉級といわれるもので、含まれる酸素、水素濃度が極めて少ない仕様になっている。このナトリウムを冷却系統に充填する場合、系統内雰囲気を減圧置換法で数回置換すると系統内雰囲気中の酸素濃度は極めて低くなるが、機器、配管表面に吸着されている酸素は置換され難い。特に1次冷却系の場合、燃料集合体は1体当りの全表面積が大きく、プラント寿命中の燃料交換回数を考慮すると、燃料交換によって系統内に混入される酸素量はかなり多くなる。一方、カバーガス(アルゴンガス)中に含まれる酸素量は少ないが、プラントの全寿命中に系内に供給されるアルゴンガス総量を評価しておく必要がある。このほか保守時にも酸素の混入があり得る。
 2次冷却系では蒸気発生器の主要材料に低合金鋼(クロムモリブデン鋼)が使用されており、表面の吸着酸素を考慮する必要がある。酸素の表面吸着量はステンレス鋼に比べて約1桁高いほか、表面の防錆処理条件、溶接部の焼鈍条件などについても配慮し評価している。また、蒸気発生器の伝熱管を透過してナトリウム中へ拡散移行してくる水素もある。この透過水素量は、蒸気発生器の稼動初期に多く、その後伝熱管の水側表面に形成されるマグネタイト層によって水素の移行は減少していく。
5.コールドトラップ
 コールドトラップは、ナトリウム中の不純物の溶解度が温度によって変化することを利用し(酸素や水素等の不純物は温度が高いほどナトリウム中にたくさん溶け込む)、文字通りナトリウムを冷却して不純物を捕獲する装置で1次冷却系および2次冷却系に設けられている。
 「もんじゅ」の1次系ナトリウム純化系コールドトラップの構造を図6に示す。この装置は、流入したナトリウムを所定の温度に冷却するための窒素ガス冷却系、冷却により過飽和状態となり結晶化した不純物を捕獲するメッシュ部とから構成されている。
 冷却用窒素ガスは本体下部のプレナムに入った後、メッシュの周囲のナトリウム中を通る伝熱管内を通過しながらナトリウムを冷却し、本体上部のプレナムから本体の外に出る。
6.カバーガス系(アルゴンガス系)
 カバーガス系(アルゴンガス系)は、原子炉容器、蒸気発生器、ポンプ等機器内のナトリウム自由液面を覆う不活性ガス(アルゴンガス)を取扱う系統である。
 1次冷却系では、以下の理由により原子炉容器内および1次主冷却系循環ポンプ内に自由液面が必要となる。
 1)制御棒駆動機構は、炉外に貫通させ機械的に駆動する。また、燃料交換の際にナトリウムと空気との接触を避けるため、燃料交換装置はしゃへいプラグを貫通させる構造である。さらに、遮へいプラグ上面を規定温度以下に抑える必要がある。
 2)1次主冷却系循環ポンプは、作動流体が高温のナトリウムのため、軸シール方式は使用できないので、ポンプ内にも自由液面が必要である。
これらの自由液面はナトリウムと反応しないアルゴンガスで覆っている。
 アルゴンガス系は、1次冷却系および2次冷却系に設けられ、各部のアルゴンガス圧を一定の値に制御するために、給排気を行う。1次冷却系のアルゴンガス系には、アルゴンガス中に混入する可能性のある希ガスの放射能を減衰するための活性炭吸着塔を設けている。また、ナトリウム液面から発生したナトリウム蒸気は、熱対流などによりアルゴンガス系内の低温部に運ばれ凝縮して付着し、弁の動きを阻害したり配管をつまらせてアルゴンガス系の機能を低下させる恐れがあることから、系内にナトリウム蒸気が入らないように、ベーパトラップを設けている。
<図/表>
表1 「もんじゅ」の原子炉冷却系主要目
図1 高速炉の原子炉冷却方式
図2 「もんじゅ」のプラント全体図
図3-1 「もんじゅ」の原子炉冷却系系統図
図3-2 「もんじゅ」の1次冷却系・2次冷却系設備の構成
図4 「もんじゅ」の1次主冷却系循環ポンプ断面図
図5 「もんじゅ」の中間熱交換器断面図
図6 「もんじゅ」の1次系ナトリウム純化系コールドトラップ構造図

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<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウム取扱い技術 (03-01-02-10)
高速増殖炉の蒸気発生器 (03-01-02-11)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)

<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版),日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2)動力炉・核燃料開発事業団 動力炉開発部門(編):動き出した高速増殖原型炉−もんじゅ、原子力工業、Vol.40、 No.6(1994)
(3)野本昭二、ほか:LWRとFBR−その類似と相違、原子力工業、Vol.35 No.2(1989)
(4)中西征二:高速増殖炉工学基礎講座 システム(その1)原子力工業、Vol.36 No.10(1990)
(5)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(6)G.Grabedian, E.Ewart:Addressing Safety Issues in a Hybrid Liquid Metal Reactor, Nuclear Engineering International, June(1987)
(7)動力炉・核燃料開発事業団、高速増殖炉もんじゅ建設所:高速増殖炉「もんじゅ」設計・建設・試運転の軌跡 (1994)
(8)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所 原子炉設置許可申請書(昭和55年12月)
(9)日本原子力研究開発機構ホームページ:高速増殖原型炉もんじゅ設備概要、
http://www.jaea.go.jp/04/monju/category03/mj_setubi/setubi.html
(10) 日本原子力研究開発機構ホームページ:高速増殖原型炉もんじゅ設計・建設・試運転の軌跡、http://www.jaea.go.jp/04/monju/category03/mj_kiseki/kiseki_html/kiseki0000.html
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