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<概要>
 ナトリウムは、熱伝導度のすぐれた熱媒体で、比重は1.0以下(常温で0.97)であるので、ポンプ動力は低くて済む。約98℃〜883℃の広い温度範囲で常圧冷却材として使用できる。また酸素濃度約10ppm以下ならば燃料、材料と共存性は良好であり、単原子分子なので照射損傷はない。また、高純度ナトリウムが低価格で得られる。その反面、化学的に活性なので、取扱い方法に注意が必要である。中性子吸収により生成する24Naは高エネルギーのγ線を放出する。また、熱伝導率が大きいので、ナトリウム温度の急変により構造材料に熱衝撃を与えやすく、設計上の配慮を要する。
<更新年月>
2010年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子炉冷却材物質の選択によって、高速増殖炉(以下、FBR)での炉心の核特性、被覆管等構造材料の選択、原子炉冷却材主循環ポンプ及び蒸気発生器等の主要機器の設計は大きな影響を受ける。FBRの原子炉冷却材は高出力密度の炉心で発生した熱を適切に除去できることが必要条件であるので、熱的、流体力学的、核的特性及び他の物質との共存性等の広範囲にわたる検討に基づく総合的な判断が必要である。
 原子炉冷却材としてこれまでに水銀、ナトリウムとカリウムの合金(NaK)等の液体金属、水蒸気、ヘリウム、鉛ビスマス等が検討されてきたが、総合的な判断によって、ナトリウムがFBRの原子炉冷却材として用いられてきた。
1.主な物理・化学的性質
 ナトリウムは地殻に6番目に豊富に存在し、工業的生産技術も確立しており、安価で大量供給が可能である。ナトリウムは常温では銀白色の柔らかいチーズ状の固体である。表1にナトリウムの物理的性質を示すが、1気圧で融点が約98℃、沸点が約883℃である。原子炉停止中は200℃程度の維持のため、ナトリウム余熱が必要であるが、FBRの運転温度では液体状で使用でき、かつ軽水炉のように冷却材を加圧する必要がない(常圧冷却材)。他方、液体状態でも不透明なため、燃料交換を可視下で行うことはできず、トラブルがあった場合に事態の把握が困難で対応に時間がかかることなどが、メンテナンスの観点からの大きな課題となっている。
 ナトリウムの化学反応特性を表2に示した。ナトリウムは反応性が大きく極めて活性的である。特に、化学的性質の中で重要となる化学反応は酸素及び水との反応である。したがって、FBRにおけるナトリウム化学の重要な点は、ナトリウムと空気や水との接触を防ぐことであり、そのためにナトリウム自由液面の表面はカバーガスとしてアルゴンガスで覆うのが一般的である。また、万一の場合にもその徴候を速やかに検出し、早期に最も適切な処置を施すことである。
2.熱的特性
 FBRの出力密度は250kW/リットル程度で軽水炉(50〜100kW/リットル)の数倍であり、この熱を除去する冷却材は大きな熱伝達係数を持つことが必須条件である。表3に原子炉冷却材として用いられる種々の液体金属の熱的特性を同じ温度(300℃)の軽水と比較して示した。ナトリウムは熱伝導度が高く、熱伝達率も大きい。すなわち、熱的特性に関してナトリウムが優れていることがわかる。さらに、ナトリウムは単原子分子で構成されており、化合物のように放射線分解することがなく、熱的性質が温度によって急変しないこともこの物質の特徴である。
3.流体力学的特性
 炉心の除熱を達成するには、原子炉冷却材をポンプによって循環する必要があり、発生出力の一部をポンプ動力として消費する。表3からナトリウムは他の液体金属と比べて比重が小さくてポンプ動力を最小にする冷却材であることがわかる。すなわち、ポンプ出力比は、水を1とした場合に、Na及びNaKともに0.93である。水銀、鉛に比べてもきわめて効率がよい。
4.核的特性
 FBRの核的特性を生かすためには、中性子をなるべく減速しない冷却材が望ましい。また、中性子吸収が小さいことも望まれる。図1は、各種液体金属の熱中性子吸収断面積を示す。Naの吸収断面積0.45バーンであり、きわめて良好である。天然に存在するナトリウムは質量数23の安定核種(23Na)のみであるが、僅かな確率ながら原子炉内で23Naが中性子を吸収すると半減期15時間の放射性同位体(24Na)ができ、1.37MeVと2.75MeVのガンマ線を放出する。
5.燃料・材料との共存性
 FBR用の冷却材としてナトリウム、ヘリウム、水蒸気等を比較した場合、不活性元素ヘリウムを除くと、燃料及び金属材料との共存性の観点からはナトリウムが、若干の問題があるものの、最良の冷却材物質であることは明らかである。
 ナトリウム中の金属の腐食は、ナトリウム中への溶出によって起こる。ステンレス鋼の場合、成分元素のクロム、ニッケルが高温部で溶出し、低温部で析出する。この現象を「質量移行現象」という。ナトリウム中の酸素濃度が高いとクロムの溶出が促進されるので、腐食率を低減させるためには、ナトリウム中の酸素濃度を10ppm以下に保つことが要求される。
 また、ナトリウムと金属との間には、「脱炭現象」と「浸炭現象」がある。脱炭現象は金属内の炭素がナトリウム中に出る現象で、炭素濃度の高いクロムモリブデン鋼に生じ易く、浸炭現象はナトリウム中の炭素が金属中に侵入する現象で、ステンレス鋼に生じ易い。これらの現象は材料の強度や脆性に影響するので、ナトリウムの純度管理が重要となる。
 酸化物燃料の場合、被覆管が健全であればナトリウムと燃料が直接接触することは起こらない。しかし、万一被覆管の破損によって接触が生じれば、ナトリウムとウラン、プルトニウムとが反応して、四酸化ウラニウム酸ソーダ、四酸化プルトニウム酸ソーダ等の生成物ができる可能性はある。
6.純度管理
 ナトリウム中にはいろいろな不純物が微量に溶け込んでいるが、特に問題となる元素は、酸素及び水素である(表2参照)。ナトリウム中の不純物濃度が高いと、機器、配管などの金属材料は腐食され易く、温度の低いところでは不純物が析出し、小口径配管などのナトリウム流路を閉塞させる恐れもある。特に原子炉1次冷却系では、核分裂生成物FP)や放射化された腐食生成物(CP)による放射線被ばくを低減するために、ナトリウム中のFPやCPの量を減少する必要がある。ナトリウム中の不純物を計測し、ナトリウム中の不純物濃度を管理する純度管理は極めて重要である。
 ナトリウム中の不純物を除去するのに最も一般的に用いられる機器は、コールドトラップである。コールドトラップは、ナトリウム中の不純物溶解度に温度依存性があるのを利用し、コールドトラップ内を通過するナトリウムを低温に保つことにより、その温度で過飽和状態となる不純物をナトリウムとの個体化合物として析出させ、内部に充填したメッシュにトラップさせるものである。FPやCPの大半はこのコールドトラップで捕獲できる。捕獲されにくいFP中のセシウムはカーボンを用いるセシウム捕獲法(FPトラップ)で除去される。また、捕獲されにくいCP中のマンガンあるいはコバルトは、これらが高温のニッケル(500℃以上)によく捕獲されることを利用し、純ニッケルをトラップ材とするCPトラップが用いられている。
 代表的なFBR用冷却材としてのナトリウム、ヘリウム、水蒸気の特徴を比較して表4に示す。
<図/表>
表1 ナトリウムの物性
表1  ナトリウムの物性
表2 ナトリウムの化学反応特性
表2  ナトリウムの化学反応特性
表3 原子炉冷却材としての液体金属と水の物性値の比較
表3  原子炉冷却材としての液体金属と水の物性値の比較
表4 高速増殖炉冷却材としてのナトリウム、ヘリウムおよび水蒸気の特徴
表4  高速増殖炉冷却材としてのナトリウム、ヘリウムおよび水蒸気の特徴
図1 種々の液体金属の熱中性子吸収断面積
図1  種々の液体金属の熱中性子吸収断面積

<関連タイトル>
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)
ナトリウム取扱い技術 (03-01-02-10)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
ナトリウムの安全性(蒸気発生器および2次系ナトリウム) (03-01-03-05)

<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)、日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2)日本原子力情報センター(編):高速増殖炉をめぐる研究開発と今後の技術的課題(昭和58年)
(3)石森富太郎(編):原子炉工学講座 熱工学・構造設計、培風館(昭和52年)
(4)久保亮五、ほか:岩波理化学辞典第4版、岩波書店(1991年)
(5)動力炉・核燃料開発事業団:動燃技報、No.73(1990年3月)
(6)亀井 満:高速増殖炉工学基礎講座−ナトリウム取扱技術(その1)、原子力工業、 Vol.35、No.8(1989)
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