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<概要>
 日本の発電用原子炉は、軽水で減速した中性子(熱中性子)を利用し、また軽水を熱の輸送に利用することから軽水炉または熱中性子炉と呼ばれる。燃料となるウランはウラン 235の濃度が約4〜5%の濃縮ウランで、化学形は二酸化ウラン(UO2)である。二酸化ウランは直径および高さが約1cmのペレットに成型され、長さ約400cmのジルコニウム合金管に密閉され燃料棒になる。百万kW級の発電炉では、約5万本の燃料棒が装荷されている。原子炉の起動、停止、出力制御には、ホウ素、カドミウムなどを含む制御材が利用される。原子炉容器(圧力容器)はマンガン、モリブデン、ニッケルをそれぞれ1%前後含む低合金鋼である。高温水や蒸気輸送の配管と炉内構造物には、低炭素オーステナイト系ステンレス鋼が利用され、熱交換器にはニッケル基合金が利用されている。高い放射線量、高温水中および引っ張り応力下の合金材料には様々な応力腐食割れSCC)が起き易く、水質の制御と併せて、その原因の解明と技術の向上が進められている。
<更新年月>
2010年02月   

<本文>
 日本の発電用原子炉の材料の概要を以下に述べる。日本には加圧水型(PWR)と沸騰水型(BWR)と呼ばれる発電用原子炉がある。図1に、加圧水型(PWR)原子力発電所の構成と材料を示す。原子炉を構成するのは、原子炉燃料、燃料の被覆管、核分裂反応の制御材、中性子の減速材および熱の輸送材を兼ねた冷却水、冷却水の輸送配管、原子炉容器、蒸気発生器、蒸気の輸送配管などの材料である。
1.原子炉燃料と被覆材
(1)燃料
 表1に、原子力発電用の軽水炉燃料の主要な仕様を示す。燃料には、ウラン235を3.7〜4.8%に濃縮した低濃縮ウランを使い、燃料化合物には、結晶構造が蛍石型の二酸化ウラン(UO2)が選ばれている。二酸化ウラン(融解温度、2,865℃)は、核分裂(燃焼)で生じる大きな温度勾配、核分裂生成物による組成変化、照射損傷、生成ガスの保持性、高温水に対する耐食性、被覆材との両立性などに優れている。また、二酸化プルトニウム(PuO2、融解温度2,390℃)と均一に混合してMOX燃料(UO2-PuO2)になり、酸化ガドリニウム(Gd2O3)とも均一に混合して可燃性毒物(burnable poison)を含む燃料UO2(Gd2O3)になる。
(2)燃料被覆材
 二酸化ウランの粉末は、約1,700℃で表1に示す形状と密度に焼結される。この焼結体はペレットと呼ばれ、熱伝導を向上するヘリウムガスと共にジルコニウム合金(ジルカロイ、Zircaloy)製の燃料被覆管に封入され燃料棒となる。表1の下欄に燃料棒の概要を示す。
 図2に示すように、BWRの燃料は燃料棒を9本×9本に束ねて一体の燃料集合体となり、PWRは同図に示すように 17本×17本で一体になる。それぞれには固定用の金具が取り付けられ、全長はBWRで約4.5メートル、PWRでは4.1メートルになる。百万KW級の発電炉の場合、BWRでは燃料集合体は約760体で燃料棒は約46,000本、PWRでは燃料集合体が約200体で燃料棒は約52,000本である。
 原子炉を運転中に、ペレットの形状変化や、焼結、割れなどにより被覆管の内面が傷つくことがある。これはペレット−被覆管相互作用(PCI、Pellet-Clad Interaction)と呼ばれ、被覆管の応力腐食割れ(SCC、Stress Corrosion Cracking)に繋がることがある。その発生頻度を低減するため、原子炉の運転モードが検討され、また、ペレットの製造条件、形状、被覆管内側のジルコニウム内張なども工夫された(表1)。
2. 減速材、反射材、冷却材
(1)減速材
 核分裂で発生する中性子は高速中性子と呼ばれ、平均2MeVのエネルギーを有し、光の1/10の速度をもつ。こうした高エネルギーではウラン235と核分裂反応を起こす確率(断面積)は低い。他方、低エネルギーの中性子では核分裂を起こす確率が飛躍的に高まる。例えば、0.025eV(速度、2,200m/秒)に減速した熱中性子(周囲の物質と熱平衡状態に達した中性子)の場合には、核分裂を起こす確率が高速中性子の数百倍も高くなる。このように、熱中性子を利用する発電用原子炉は熱中性子炉とも呼ばれる。水は優れた減速材であり、高速中性子を熱中性子に減速できる。
 また、炉心の外周部の水は中性子が燃料領域から外に洩れにくいように、中性子を反射して核分裂反応の燃料領域に戻す役割を果たしている。こうした役割を果たす材料を反射材と呼ぶ。
(2)冷却材
 核分裂で発生した熱を輸送するために冷却材が必要であり、PWRやBWRでは普通の水(軽水)が冷却材である。水は、種々の冷却材のうち比熱が最も高く、化学的に安定であり、その液体と気体(水蒸気)の状態変化は発電機のタービンを回すのに適している。
(3)水質の管理
 高温高圧の水は、応力のかかった材料と反応しその応力腐食割れを起こす原因になることがある。これまでに、ジルカロイ、圧力容器とその内壁面に溶接されたステンレス鋼製の部材、ステンレス鋼配管、蒸気発生器などのニッケル基合金、炉内機器のステンレス鋼などに応力腐食割れが発見されており、水質の管理は重要な技術上の課題である。表2に、PWRとBWRの水質を示す。
3.制御材
 制御材は、原子炉を起動させ、出力を変動させ、また、停止させる機能をもつ材料であり、ホウ素(ボロン)系(B)、カドミウム系(Cd)、ハフニウム系(Hf)、希土類系(Gd)などがある。表3に、原子炉の制御に有効な制御用元素と同位体の主な核的性質および利用例を示す。
 PWRでは、出力制御には制御棒とケミカルシムを併用している。このうちケミカルシム制御とは、一次冷却水中に溶かすホウ酸(中性子吸収材)の濃度を変えることによって、燃料の燃焼に伴う反応度低下を補償したり、あるいは緩やかに出力を変化させる方法である。
 BWRでは、制御棒と冷却水の沸騰により生じる蒸気泡(ボイド)を原子炉の運転制御に利用する。ボイドが増えると、減速材(水)の密度が小さくなり中性子の平均エネルギーは高くなって核分裂が少なくなる。このボイドの量を再循環ポンプで調節し、出力を平坦化する。
4.原子炉容器(圧力容器)
 原子炉容器(圧力容器)は、原子炉本体を閉じ込める容器であり、表2に示す高温・高圧水および中性子線照射下で原子炉の稼働期間にわたって健全性を維持できることが必要である。素材は、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)をそれぞれ1%前後含む低合金鋼である(表4)。照射脆化に対する抵抗力を増すため、不純物の銅、リン、イオウなどの含有量は低減されている。水に接する内面には、腐食防止のためステンレス鋼またはニッケル基合金が内張(クラッディング)されている。なお、2006年には、世界の原子炉用圧力容器の約50%は日本製で占められている。
5.蒸気発生器
 PWRでは、約300℃の一次冷却水から伝熱管を通して二次冷却水に熱が移動し、これによって発生した高温高圧の水蒸気が蒸気タービンを回して発電する。蒸気発生器に多数ある伝熱管は耐熱性と健全性が求められ、ニッケル基合金の600合金や粒界腐食割れに強い690合金が利用されている。
 BWRでは、タービンに送る水蒸気を原子炉で発生させるので蒸気発生器はない。蒸気を乾燥する気水分離器や蒸気乾燥器はステンレス製で炉心槽(シュラウド)に繋がっており、炉心槽は応力腐食割れに強い低炭素ステンレス鋼(SS316L)で製造されている。
6.配管
 PWRの一次冷却水の配管には約310℃で13.4MPaの圧力がかかり、強度とともに過熱冷却水に対する応力腐食割れへの抵抗性が必要である(表2)。また、冷却水に溶け込んだ鋼材中のコバルトが原子炉で放射性のコバルト60になり、作業者の被ばくを増す原因となることから素材のコバルト濃度は低減が必要である。この配管には、主にフェライトを含むオーステナイト系2相ステンレス鋼が利用される。
 BWRの冷却水の配管には約285℃で6.7MPaの圧力がかかる(表2)。配管には、応力腐食割れの少ない低炭素ステンレス鋼(SS316L)が利用される。
7.原子炉材料の応力腐食割れ
 表5に、発電用原子炉で生じた主な応力腐食割れの材料、損傷部分および原因を示す。PWRでは、原子炉容器(圧力容器)のステンレス鋼の溶接部や内部機器、ジルカロイ、ステンレス鋼製の配管、蒸気発生器のニッケル基合金製の細管などで応力腐食割れが生じた。BWRで生じる応力腐食割れはPWRと比較して多い。
 応力腐食割れは、初期の発電用原子炉で、ほとんどのステンレス鋼やニッケル基合金で発生した。その後の材料の改良と水質の改善により発生頻度は低減しているが、原子炉の長寿命化、燃料の高燃焼度化を目指す上で、解決すべき重要な技術上の課題である。
<図/表>
表1 PWR燃料とBWR燃料の主要な仕様
表1  PWR燃料とBWR燃料の主要な仕様
表2 軽水炉の水質
表2  軽水炉の水質
表3 制御材とその利用
表3  制御材とその利用
表4 圧力容器の合金鋼の組成
表4  圧力容器の合金鋼の組成
表5 原子炉材料の主な応力腐食割れ(SCC)
表5  原子炉材料の主な応力腐食割れ(SCC)
図1 原子力発電所の主な構成
図1  原子力発電所の主な構成
図2 原子力発電用の燃料(燃料集合体、燃料ピン、ペレットおよび制御棒)
図2  原子力発電用の燃料(燃料集合体、燃料ピン、ペレットおよび制御棒)

<関連タイトル>
軽水炉蒸気発生器伝熱管の損傷 (02-07-02-14)
軽水炉における応力腐食割れ (02-07-02-15)
原子燃料の基礎 (03-06-01-01)
軽水炉燃料の破損原因 (03-06-01-07)
原子炉材料の基礎(1) (03-06-01-09)
原子炉材料の基礎(2) (03-06-01-10)
BWR用ウラン燃料 (04-06-03-01)
PWR用ウラン燃料 (04-06-03-02)
軽水炉圧力容器鋼の脆化機構と研究動向 (06-01-01-30)

<参考文献>
(1)原子力ハンドブック編集委員会、原子力ハンドブック、「3章.原子炉の燃料、190-198、4章.原子炉の材料と水化学」、199-228、オーム社(株)(平成19年)
(2)森 一麻、「連載講座 核燃料工学の基礎−軽水炉燃料を中心に、第一回 核燃料の概要」、原子力学会誌、46(5)、339-345(2004)
 
(3)佐藤育男、「原子力機器材料の開発の進歩と今後の展望−室蘭から世界へ」、日本原子力学会誌、49(3)、184-189(2007)
(4)内田俊介、「軽水炉プラントの水化学、第1回 軽水炉プラントにおける水の役割と水化学制御」、日本原子力学会誌、51(2)、106-111(2009)
(5)恩地健雄、「応力腐食割れ(SCC)発生機構の本質的な理解を目指して」、日本原子力学会誌、49(11、12)、783-787(2007)
(6)山脇ほか、「BWR炉心シュラウド等の応力腐食割れに係わる最近の研究動向」、日本原子力学会誌、47(6)、385-397(2005)
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