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<概要>
 原子力施設において、供用開始後の点検、保守等の作業のうち、強い放射線を伴い、かつ、狭隘な場所での作業をロボットに行わせることが早くから進められてきた。これらのロボットには小型軽量で耐放射線性の高いことが求められる。初期のロボットは燃料取替機や原子炉内検査装置のような単機能ロボットであった。その後、移動機構を備え、各種作業を柔軟に行える多機能ロボットの開発が進められている。その中で、実用に供しているロボットおよび将来を目指した知的な自律型ロボットの開発状況をいくつか示す。また、JCO臨界事故後開発された、原子力施設の事故現場に接近し必要な情報を収集する「遠隔情報収集ロボットRESQ)」についても示す。
 なお、原子炉施設等の廃止措置に伴う炉内構造物、原子炉容器等の高放射化物の解体撤去を安全かつ効率よく行うため、ロボットによる遠隔解体技術の開発も進められている。詳細はATOMICA「ロボットによる遠隔解体技術(05-02-02-03)」にまとめられている。
<更新年月>
2010年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力施設において、供用開始後の点検、保守等の作業のうち、強い放射線を伴い、かつ、狭隘な場所での作業についてはこれをロボットに行わせることが早くから進められてきた。これらのロボットには小型軽量で耐放射線性の高いことが求められる。初期に開発されたロボットは、燃料取替機や原子炉内検査装置のような特定作業を行う単機能ロボットであった。その後、メカトロニクスの進歩によってロボット技術は急速に進展し、移動機構を備えて多種多様な作業が行える汎用高機能ロボットが開発され、更に、将来を目指して、原子力発電所の設計情報などを持ち、自律的に移動して点検や保守作業を行う自律型ロボット等の開発も進められている。
 原子力発電所用に開発されたロボットで現在実用に供されているものは、専用機としての役割を持った制御棒駆動機構自動交換装置、燃料自動取替装置、原子炉容器ヘッド取外し装置、自動超音波探傷装置などがあり、最近では、水中を自在に移動して炉内の点検を行うロボット、原子炉格納容器内をモノレールに沿って移動し点検を行うロボット、原子力災害の拡大防止や終息作業を支援するロボットなど汎用性を増したものが実用化されている。また、発電所の高経年化に伴う供用期間中検査(ISI:In-Service Inspection)の重要性の高まりから、炉内構造物の応力腐食割れ、配管の減肉等に対してより精度よくかつ迅速な検査が可能なロボットも実用化されている。以下にこれらの例の一部を紹介する。また、JCO臨界事故後に開発された、原子力施設の事故現場において、高放射線環境下の事故現場に接近し、現場状況の把握、復旧対策などのための情報収集調査を遠隔操作で実施できる自走式遠隔情報収集ロボット「RESQ」についても紹介する。
 なお、原子炉施設等の廃止措置に伴う炉内構造物、原子炉容器等の高放射化物の解体撤去を安全かつ効率よく行うため、ロボットによる遠隔解体技術等の開発も進められている。詳細はATOMICA「ロボットによる遠隔解体技術(05-02-02-03)」にまとめられている。
1.超高速全自動ECT探傷システム
 PWR原子力発電所の蒸気発生器(SG:Steam Generator)内の伝熱管は、1SG当たり約3,400本ある。この伝熱管の健全性を確認するため定期検査毎に全数・全長の渦流探傷検査(ECT:Eddy current Testing)を実施している(図1参照)。
 超高速全自動ECT探傷システムは、探傷工程の短縮、検査員の被ばく低減および省人化を目的としており、小さいスペースに対応可能なプローブ送り装置(プッシャー)と、SG管板部歩行型ロボット(MR-3)を原子炉格納容器外に設置した遠隔制御装置により制御し、従来の約2倍の早さでECT探傷を行うシステムである。
2.原子炉容器超音波探傷装置
 PWR原子力発電所の原子炉容器は板厚約200mmの低合金鋼で作られ、その内面はステンレス鋼で肉盛されている。この容器の健全性を確認するため、超音波探傷検査(UT:Ultrasonic Testing)を実施している(図2参照)。この検査作業を行う小型・軽量水中航行ロボットはA-UTマシンと呼ばれている。このロボットは、水中で複雑な「倣い(ならい:あるものを手本にしてまねる)」動作を可能とする高度な電動7軸多関節マニピュレータを備え、水中航行・壁面移動機能を持つ水中台車で構成される。ロボットの位置は水中に置かれたレーザ位置標定システムにより検出する。このロボットの導入により大幅な検査時間の短縮が可能となっている。
3.水中点検ロボット(BWRの例)
 水中点検ロボットは、テレビカメラと照明を搭載し水中を自由に移動して水中の点検作業を行う装置である(図3参照)。大きさは幅150mm、長さ200mm、質量が1.7kgと小型軽量のため、4個のプロペラを使用して狭い原子炉容器内のどこにでも移動して点検検査を行うことができる。このほか本体の下にマジックハンドを塔載して回収作業を行ったり、耐放射線カメラを塔載して放射線の強い場所での点検検査をすることも可能であり、最近ではテレビカメラによる目視検査のほか、ECT検査、UT検査が行えるようにセンサーを搭載したものも開発されている。
4.水中作業ロボット(BWRの例)
 水中作業ロボットは原子炉炉心部の点検や予防保全作業に使用される装置である( 図4 参照)。大きさは収納時外径φ270mm、長さ5400mmで、Xリンクの進展アームによりストローク2000mmである。水平旋回、伸展、上下の3自由度の移動制御と、先端部に取付けた工具により、炉内での作業を柔軟に行なうことができる。工具は炉内で交換可能な構造になっており、ロボットを炉内に設置後取外すことなく複数の作業を行なうことができる。すでに炉心構造物の応力改善作業に使用されている。
5.格納容器内移動式小型監視点検装置
 BWR原子力発電所の原子炉格納容器内には、主蒸気隔離弁等の重要機器が設置されているが、運転中は人が立ち入ることができない。そこでこの格納容器内にモノレール移動式の小型監視点検装置を設置した(図5参照)。この装置は、ロボット本体、モノレール(軌道)、中央制御室の操作盤等で構成され、A4サイズの通過断面積があれば設置することができ、垂直走行も可能である。ロボット本体には、カラーTVカメラ、赤外線カメラ、およびマイクロフォンのセンサを有し、センサ情報自動監視機能を用いた無人運転が可能なシステムである。本装置を用いた継続的な機器の状態監視によりプラントの安全運転に寄与している。
6.原子炉容器検査ロボット
 BWR原子力発電所の原子炉(圧力)容器のISIでは、容器の溶接線に追従してUTにより探傷する必要がある。従来は、予め溶接線に沿って設置した軌道を用いて検査装置を走行させていたが、現在は軌道を必要としない自走式検査ロボットを開発している(図6参照)。このロボットは、曲面に対して安定した吸着性能を有する負荷分散型の磁気クローラを採用している。また、装置本体に設置した視覚カメラからの画像モニタ上で、操作員がマウスで目標位置を指定するだけで目標位置まで自動走行する画像ナビゲーション機能により、ロボットの操縦が簡便になり、操作員の負担が軽減できるシステムである。
7.知的保全システム(汎用ロボット)
 将来の発電所の保守作業を支えるロボット技術として、高度なセンシング技術と移動・通信機能を備え、保守作業の高度化と効率化を図る原子力施設用知的保全システムの開発が進められている(図7参照)。このシステムは、(1)運転中プラントの巡視点検作業を自律・遠隔で行う運転中点検システム、(2)定期検査中に、水中で点検作業を自律・遠隔で行う水中点検・作業システム、(3)配管の溶接作業を自律・遠隔で行う全自動溶接システム、ならびに、(4)これらの点検検査データを共用で管理するシステムから構成される。これらの各ロボットは、プラント内の建屋や水中を、システム内に持ったプラント情報と環境センサーを駆使してみずから周囲環境を判断しながら自律的に移動し、レーザー振動計などの高度なセンシング機能を用いた機器点検や、力制御の行える7軸マニピュレータを用いた水中作業を行う。
8.原子力施設事故時に対応する「遠隔情報収集ロボット(RESQ)」
(1)開発の背景
 1999年9月に起きた核燃料加工工場JCOの臨界事故では、事故直後は高放射線環境の事故現場に侵入できず、現場状況を把握することが困難な状況となり、事故収拾のため取るべき対策の決定に多くの時間を要した。このため、原子力施設に事故が発生した際には人間の代わりに事故現場に侵入し、現場状況の把握、事故収拾のための対策などに必要な情報収集を行い、外部で待機している人間に送信できる自走式ロボットの開発が急がれた。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)では、培ってきた原子力ロボット開発の技術・知見をもとに、原子力施設事故時に事故現場に自走し情報収集や軽作業を実施する「遠隔情報収集ロボット」(RESQ:Remote Surveillance Sqaud、レスキュー)を開発した。
(2)遠隔情報収集ロボット(RESQ)
 図8に遠隔情報収集ロボット(RESQ)の外観を、表1にRESQの仕様を示す。初期情報収集ロボット(RESQ-A、2台)は、事故直後の現場状況を迅速に把握するため、小型軽量の遠隔自走式ロボットで、現場における放射線量、映像・音声、機器類の温度の情報を収集する。詳細情報収集ロボット(RESQ-B、1台)は、マニピュレータ1台を装備しており、扉の開閉、階段の昇降などを行なって事故発生場所に接近し、より広範な情報(放射線量、映像・音声、機器類の温度、室内の雰囲気、障害物の位置)を収集する遠隔自走式ロボットである。試料等情報収集ロボット(RESQ-C、1台)は、マニピュレータ2台を装備しており、扉の開閉、階段の昇降などを行って事故発生場所に接近し、放射能汚染情報の収集および試料(気体・液体・固体・表面汚染等)の採取を行う遠隔自走式ロボットである。
 各ロボットの操作は操作盤を備えた専用のコンテナ(ロボットの搬送にも利用)内で行われ、収集された情報はコンピュータに取り込まれ集中管理される。なお、RESQ-Aでは機動性が重視され、小型軽量の可搬型操作盤を別途備えており、事故直後小型乗用車等に搭載し現場に急行できる。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
表1 遠隔情報収集ロボット「RESQ」の仕様
表1  遠隔情報収集ロボット「RESQ」の仕様
図1 超高速全自動ECT探傷システム
図1  超高速全自動ECT探傷システム
図2 原子炉容器超音波探傷装置
図2  原子炉容器超音波探傷装置
図3 水中点検ロボット
図3  水中点検ロボット
図4 水中作業ロボット
図4  水中作業ロボット
図5 格納容器内移動式小型監視点検装置
図5  格納容器内移動式小型監視点検装置
図6 原子炉容器検査ロボット
図6  原子炉容器検査ロボット
図7 知的保全システム
図7  知的保全システム
図8 遠隔情報収集ロボット「RESQ」の外観
図8  遠隔情報収集ロボット「RESQ」の外観

<関連タイトル>
原子力発電所の溶接検査 (02-02-03-11)
TMI事故の現状と調査研究 (02-07-04-09)
ロボットによる遠隔解体技術 (05-02-02-03)

<参考文献>
(1) 濱田 彰一:原子力発電所(PWR)メンテナンスロボットの開発動向、火力原子力発電、41(11)、p.1428〜1438
(2) 超高速全自動ECT探傷システム、電気新聞(1998年2月13日付)
(3) 大道 武生ほか:改良標準型原子炉格納容器超音波探傷装置の開発、日本ロボット学会誌、12(3)、p.357〜358(1994)
(4) 木村 元比古ほか:原子炉用水中目視点検装置の開発、日本原子力学会誌、38(10)、p.826〜833(1996)
(5) 佐藤 勝彦ほか:原子力発電所における水中作業ロボットの開発、ロボット・メカトロニクス講演会予稿集、C203(1995)
(6) 妹尾ほか、原子力発電プラント用移動式小型監視点検装置の開発と実機への適用、火力原子力発電、483(47)、p.47〜53、p.1405〜1411(1996)
(7) 内藤:磁気クローラ式吸着移動ロボット、日本ロボット学会誌、10(5)、p.606〜608(1992)
(8) 松田 桂一ほか:原子力プラント用知的保全システム、火力原子力発電、48(6)、p.691〜700(1997)
(9) 北見 恆雄ほか:[特集]高まる原子力用ロボットの使命−技術開発の動向を探る、原子力eye、44(7)、p.10〜39(1998)
(10) 日本原子力研究所HP:原子力施設事故時に対応する遠隔情報収集ロボットを開発(2001年3月14日)
(11)(財)中部産業・地域活性化センター:「次世代ロボット産業」、中部産業レポートVol.6(2009年10月)
(12)小平小治郎ほか:原子力発電所の安定運転を支える高度検査技術、日立評論Vol.90 No.02 166〜167(2008.02)
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