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<概要>
 中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機は2001年11月7日より原子炉停止中であったが11月9日原子炉格納容器内点検中に制御棒駆動機構(CRD)下部から原子炉水の滴下を発見した。滴下部位を特定するため点検を行ったところ、制御棒駆動機構ハウジング貫通部からの水漏れであると推定された。その後原子炉容器から全燃料を取出し、漏えい部位特定の調査をしたところ、原子炉容器とスタブチューブとの溶接部からの漏えいであることが分った。原因は溶接部の残留応力による応力腐食割れと推定された。
 放射能による周辺への影響はなくINESレベルは0+の評価であった。
<更新年月>
2009年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.漏えい事象と漏えい部位の調査
 中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機(沸騰水型、540MWe)は、余熱除去系配管破断事故(2001年11月7日)にともなう原因調査のため原子炉停止中であった。11月9日原子炉格納容器内の点検中、制御棒駆動機構(CRD)1本の下部付近(図1参照)から数秒に1滴程度の水漏れを発見した。
(1)漏洩部位の特定
 11月10日にさらに詳細点検を行った結果、原子炉容器下部の制御棒駆動機構ハウジング貫通部(図2参照)からの水漏れであると推定された。その後原子炉容器を開放し、全燃料を取出し、漏えい部位特定の調査(バブル試験)を行った結果、原子炉容器とスタブチューブの溶接部(下部溶接部)に気泡の発生をみたので(図3参照)、原子炉容器とスタブチューブとの溶接部からの漏えいと判明した。
(2)水中カメラによる目視観察
 水中カメラによる漏えい部位の目視観察では、溶接部金属範囲内で軸方向に発生していたき裂からの漏えいであった(図4参照)。き裂の長さは約50mmで、き裂の上端はスタブチューブ母材には達していなかったが、き裂の下端は肉盛り座まで及んでいた。き裂は全体が湾曲し、一部には微細な枝分かれが観察された。
 念のため、1号機の他の88本のスタブチューブ下部溶接部に対しても目視観察を行ったが、いずれも異常が無かった。
2.原因究明調査
(1)超音波探傷試験による観察
 スタブチューブ下部溶接部のき裂の内部状況を調査するため、超音波探傷試験を行った。き裂はスタブチューブ内面側(ハウジング側)へ向かうにともないスタブチューブと溶接金属の境界および溶接金属と肉盛り座の境界に沿うように奥にいくにしたがって狭くなっており、溶接金属部で裏面に貫通していると推定された。
 また、き裂の下端は肉盛り座(インコネル182)の一部に達しているものの、原子炉容器内張り(インコネル82相当)には達していないと推定された。
(2)溶接部切り取り試験片の金属調査
 試験片(ボートサンプル)の金属調査の手順を図5に、外観観察結果を図6に、破面観察結果を図7に、断面観察結果を図8に示す。原因特定のため、当該き裂部分より試験片(ボートサンプル)を切り取り、この金属片について、外観、き裂の状況、走査型電子顕微鏡による破面観察、光学電子顕微鏡による断面観察、硬さ測定および化学成分分析を実施した。
 観察結果では、当該溶接部のき裂が結晶粒界に沿って、折れ曲がりをともなって進展しているという粒界型応力腐食割れの特徴が見られたこと、破面には疲労損傷に特徴的なストライエーション状の模様は見られなかったこと、溶接金属および母材にき裂以外の溶接欠陥等が見られなかったことなどから粒界型応力腐食割れであると判定された。
 また観察の結果、原子炉容器内張り(インコネル82相当)には達していないことが確かめられた。
(3)その他の調査
 金属調査を実施するとともに、モックアップを用いた残留応力の確認試験およびシミュレーションによる応力解析等を実施した。金属調査とほかの結果をまとめて表1に示す。4.原因
 制御棒駆動機構ハウジング貫通部からの炉水漏えいの原因は、破面観察、応力確認試験、応力解析等の結果から、以下のとおりと推定された。
(1)当該部の溶接に溶接金属としてインコネル182が用いられていたこと、応力腐食割れを生ずる可能性がある残留応力が残る溶接施工方法がとられていたこと、炉水環境が応力腐食割れを生じさせる環境にあったことから、当該部に応力腐食割れによるき裂が生じた。
(2)応力腐食割れによるき裂が進展し、溶接部を貫通した結果、原子炉水の漏えいが起こった。
5.対策
 スタブチューブ下部溶接部にき裂が確認された制御棒駆動機構ハウジングとスタブチューブは取替える。取替えに当たっては溶接棒に耐食性に優れた材料を使用する。
 念のため、1号機の他の88本のスタブチューブ下部溶接部に対しても水中カメラによる目視観察を行なったが、いずれも異常が無かったことを確認した。
6.今後の対応(参考文献3)
(1)原子力安全・保安院沸騰水型原子炉を運転する電気事業者に対し、応力腐食割れに起因する漏えいを適切な監視体制によって早期に把握し、所要の対策を求める。(注:原子力安全・保安院は2012年9月18日に廃止され、原子力規制委員会の事務局として2012年9月19日に発足した原子力規制庁がその役割を継承している。)
(2)原子力安全・保安院は当該部に上述の溶接金属および溶接施工方法を採っている沸騰水型原子炉で点検実績のないものに対しては、電気事業者に対し点検の実施を求める。
(3)原子力安全・保安院は以下のごとく考える。溶接金属のインコネル182は開発当初は応力腐食割れに強いと考えられていたが、その後の経験・研究などにより、応力腐食割れの可能性を否定できない知見が得られてきている。今後インコネル182などの高ニッケル合金に関する応力腐食割れの調査・研究を官民ともにさらに取り組んでいくことが必要である。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
表1 浜岡1号機制御棒駆動機構ハウジングからの漏えいに関する調査状況
表1  浜岡1号機制御棒駆動機構ハウジングからの漏えいに関する調査状況
図1 炉水が漏えいした制御棒駆動機構の位置
図1  炉水が漏えいした制御棒駆動機構の位置
図2 制御棒駆動機構ハウジング図
図2  制御棒駆動機構ハウジング図
図3 漏えい洩部位の特定
図3  漏えい洩部位の特定
図4 き裂部位からのバブル発生
図4  き裂部位からのバブル発生
図5 試験片(ボードサンプル)の金属調査手順
図5  試験片(ボードサンプル)の金属調査手順
図6 試験片の金属調査−外観観察結果
図6  試験片の金属調査−外観観察結果
図7 試験片の金属調査−破面観察結果
図7  試験片の金属調査−破面観察結果
図8 試験片の金属調査−断面観察結果
図8  試験片の金属調査−断面観察結果

<関連タイトル>
原子力発電所の定期検査 (02-02-03-07)
原子力発電所の溶接検査 (02-02-03-11)
軽水炉における応力腐食割れ (02-07-02-15)
浜岡原子力発電所1号機余熱除去系配管破断事故 (02-07-02-19)

<参考文献>
(1)中部電力:浜岡原子力発電所1号機配管破断および原子炉下部からの水漏れについて、中部電力(2002年4月)
(2)資源エネルギー庁:原子力のページ−トラブル等情報データベース、浜岡1号機 原子炉圧力容器と制御棒駆動機構ハウジング貫通部からの原子炉水の漏えい(停止中に発見されたトラブル)(2002年10月時点におけるWeb情報)
(3)原子力安全・保安院:中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機の事故の原因究明と今後の対応について、平成14年5月13日
(4)中部電力:1号機の原子炉水の漏えい事故について 調査結果の概要(1)(2)(2002年10月時点におけるWeb情報)
(5)中部電力:浜岡原子力発電所1号機 制御棒駆動機構ハウジング部からの漏えいに関する調査状況について(2002年10月時点におけるWeb情報)
(6)中部電力:浜岡原子力発電所1号機の制御棒駆動機構下部の点検結果について、http://www.chuden.co.jp/corpo/publicity/press2001/1110_2.html
(7)中部電力:浜岡原子力発電所1号機 制御棒駆動機構ハウジング部からの漏えいに関する原因と対策について、http://www.chuden.co.jp/corpo/publicity/press2002/0424_4.html
(8)原子力安全・保安院:中部電力株式会社浜岡原子力発電所1号機における制御棒駆動機構ハウジング貫通部からの漏えいについて(最終報告書)、平成14年5月
(9)原子力安全基盤機構:原子力のページ−トラブル等情報データベース−報道発表資料
(10)原子力安全委員会原子力事故・故障調査専門部会:中部電力株式会社浜岡原子力発電所1号機における事故・故障に関する調査報告書、平成14年5月
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