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<概要>
 原子力発電所と火力発電所との違い、原子力エネルギー、および原子力エネルギーを利用して発電するしくみについて軽水型原子力発電所(加圧水型発電所と沸騰水型発電所)を例にとって述べる。
<更新年月>
2005年10月   

<本文>
 原子力発電と火力発電との違いは熱エネルギー発生源が原子炉かボイラーかの構造的違いのほかに、発電に必要な燃料に大きな差がある。電気出力100万kWの発電所を例に取れば、原子力発電では最初の年で90〜120トンウラン(以降は20〜30トン)必要であるが、重油火力では毎年約150万キロリットル、石炭火力なら毎年約280万トン必要である。
1.原子力発電と火力発電との違い
 図1に原子力発電所(例:加圧水型発電所)と火力発電所との比較を示す。原子力発電所では、原子炉内でウランを核分裂反応させて発生した熱エネルギーで高温高圧水をつくり、蒸気発生器を介して蒸気を発生させ、発電している。この核分裂反応では酸素を必要としない。一方火力発電所では、ボイラーで重油、石炭あるいはLPGなどを化学燃焼させて蒸気を発生させ、発電している。化学燃焼なので酸素を必要とする。構造上の大きな違いは、火力発電所のボイラーが原子力発電所では原子炉と蒸気発生器に置き換わっていことである。タービン、発電機などの設備については大差は無い。
 表1に原子力発電所と火力発電所の蒸気条件の比較を示す。原子力発電所における蒸気条件は、核燃料や他の材料の熱伝達特性により制限を受けるので、火力発電所よりかなり低い。火力発電所では一般に過熱蒸気が使われるが、原子力発電所では飽和蒸気が使われるので蒸気タービンは湿分分離・侵食防止に考慮をはらった設計になっている。したがって、プラント熱効率は火力発電所の約40%に較べ原子力発電所では33〜34%と低い。
 原子力発電所特有の問題では、原子炉・蒸気発生器などから放射線が出るので放射線遮へい対策が必要である。気体状・液体状および固体状の放射性廃棄物が出てくるため、廃棄物処理設備の設置、環境放射能の監視などが必要である。運転を続けていくうち核燃料には強い放射能をもつ核分裂生成物(高レベル放射性廃棄物)が蓄積される。高レベル放射性廃棄物の処理処分も課題である。また原子炉の事故時にはこのような核分裂生成物が放散しないよう多重の安全設備が設けられている。原子炉停止後も核燃料から崩壊熱が放出されるので、長期間原子炉を冷却する必要がある。
 火力発電所特有の問題では、化石燃料を用いることから、燃焼後に、酸性雨や地球温暖化の原因物質とされる二酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物などを環境に放散していることなどがある。もちろん排出規制を受けている。また石炭火力発電所では膨大な量の燃えカスの処理も問題とされている。
 原子力発電所では制御棒などの中性子吸収材を用いて核分裂連鎖反応を調整して出力を制御している。またウランなどの核燃料を一度に一定量原子炉に装荷すれば1年間程度は燃料補給無しで運転できる。使用済み燃料を再処理してプルトニウムを回収すればこれも核燃料としてリサイクルできる。一方火力発電所ではボイラーへの燃料供給量を調整して出力を制御している。化石燃料の燃焼廃棄物はそのまま捨てられる。
2.原子力エネルギー(核分裂エネルギー)
 表2に核分裂前後の質量の比較を、表3に核分裂エネルギーの内訳を示す。核燃料の中にあるウラン235(U−235)は速度の遅い中性子(熱中性子)を吸収してウラン236になるが、二つの破片に分裂(核分裂)し、その分裂片(核分裂生成物)とともに、2〜3個の中性子が同時に放出される。β線、γ線も放出される。放出された中性子が減速材(軽水)によって遅い中性子にされてまたウラン235に吸収され核分裂する。このように核分裂の連鎖反応が続いていく。核分裂生成物は不安定な放射性物質でβ線やγ線を放出しながら次第に安定な核種になっていくが、この際熱を発生する(崩壊熱を出すと言う)。
 核分裂のしかたはさまざまであるが、その一例として、
   U−235+n(中性子) −> Y−95(イットリウム)+I−139(ヨウ素)+2n(中性子)。
核分裂前後の質量を比較すると(表2)、差し引き0.215amu(原子質量単位)の質量欠損が生じる。アインシュタインの特殊相対性理論の結果(質量はエネルギーと等価)に従えば質量欠損はエネルギーに換算することができ、約200MeV(0.215amu×931.5MeV=200.3MeV)となる。これがウラン235原子核1個からの核分裂エネルギー(原子力エネルギー)である。核分裂エネルギーは、核分裂片の運動エネルギーが約80%、中性子の運動エネルギーが約20%、ほかγ線、β線などの運動エネルギーの形で放出される。最終的には原子炉(核燃料)内で熱エネルギーになる。
 一方化石燃料の石油や石炭の燃焼では、その構成物質である炭素や水素が化学反応で燃焼するので、
  C(黒鉛)+ O2(酸素)= CO2(二酸化炭素)+ 94.1kcal(4.1eV)、
  H2(水素)+ (1/2)O2(酸素)= H2O(水)+ 57.8kcal(2.5eV)。
双方合わせて約7eVなので化学エネルギーより核分裂エネルギーの約200MeVが圧倒的に大きい。例えばウラン235の1kgが全部核分裂したとすると、そのエネルギーは重油換算で約240万リットル、石炭換算で約300万kgに相当する。
3.原子力発電のしくみ
 世界の原子力発電所の中で80%以上をしめているのが軽水型原子力発電所(軽水を中性子減速材と原子炉冷却材に使用している原子炉を採用)である。軽水型発電所には、加圧水型原子炉(PWR)を用いた加圧水型原子力発電所と、沸騰水型原子炉(BWR)を用いた沸騰水型原子力発電所とがある。加圧水型原子力発電所では蒸気発生器で蒸気がつくられ、沸騰水型原子力発電所では原子炉(圧力)容器内で蒸気がつくられる。加圧水型原子力発電所では原子炉冷却水が沸騰しないように高圧(約157気圧)に保たれ、沸騰水型原子力発電所では原子炉容器内で沸騰水となっている。
(1)加圧水型原子力発電所
 表4に加圧水型原子力発電所の主要な設備仕様を、図2に主要な基本構成を、図3に原子炉(圧力)容器内構造を、図4に蒸気発生器を、図5に安全設備を示す。加圧水型原子力発電所で採用されている加圧水型原子炉は最初米国が原子力潜水艦用として開発し、後に大型化し陸上の原子力発電所用となった。
 加圧水型原子炉では、原子炉冷却水(一次冷却水)は炉心(核燃料)を通過してる間に高温高圧(約320℃、約157気圧)にされ、一次冷却材ポンプの駆動力によって原子炉(圧力)容器と蒸気発生器の間を循環する。蒸気発生器内では多数の伝熱管を介して一次冷却水との熱交換で蒸気(約270℃、約60気圧)が発生し、タービン発電機に送られる。発電の仕事を終えた蒸気(二次冷却水)は復水器で海水(海外では河川水が多い)によって冷却され水になり給水ポンプにより蒸気発生器に戻される。高温側配管に取り付けられている加圧器は原子炉冷却水が沸騰しないように圧力を制御している。
 原子炉出力(反応度)の制御には一次冷却水中に溶解させたホウ素(中性子吸収材)濃度の調整と、制御棒(中性子吸収材)の炉心への挿入・引き抜きの位置調整とがある。ホウ素濃度の調整は長期間にわたる反応度制御に、制御棒の調整は短期間の反応度制御に用いられる。電力系統の負荷(タービン出力)に応じて制御棒を調整する「原子炉側がタービン側に追従する」(負荷追従運転)制御方式をとっている。
 事故発生した際の対応措置では、仮に一次冷却材配管が破断し一次冷却水流失が起きた場合には、燃料の溶融を防止し多量の放射性物質が発電所の外に放散するのを防止するための安全設備(図5非常用炉心冷却装置:高圧注入系、低圧注入系、蓄圧注入系;原子炉格納容器、格納容器スプレイ系など)がある。
 以上ウェスチングハウス(WH)社製の加圧水型原子炉について述べたが、コンバスチョンエンジビアリング(CE)やバブコック・アンド・ウィルコック(B&W)社製もある。艦艇用PWRは、BWRを開発してきたジェネラルエレクトリック(GE)社も製造している。VVERはロシアが開発した加圧水型原子炉である。
(2)沸騰水型原子力発電所
 表5に沸騰水型原子力発電所の主要な設備仕様を、図6に基本構成を、図7に原子炉(圧力)容器内構造を、図8に安全設備を示す。
 沸騰水型原子炉では、原子炉冷却水は炉心を通過してる間に高温高圧(約290℃、約71気圧)にされ、原子炉(圧力)容器内で蒸気にされ、タービン発電機に送られる。発電の仕事を終えた後は復水器で海水によって冷却され水に戻り、給水ポンプにより原子炉(圧力)容器に送られる。この水の一部は外部に設けられた再循環ポンプにより昇圧され、ジェットポンプの噴出力で残りの水を吸い込み、原子炉容器内の底部から炉心へ供給される。
 再循環系は原子炉冷却系統設備の一部として、また原子炉出力を制御する役割もある。再循環ポンプの周波数を変えることにより原子炉冷却水の流量を制御してボイド量を変化させ原子炉出力を制御する。この再循環流量の調整は通常運転時の急速な負荷変化に対応する出力制御に使われる。制御棒による出力制御は燃料の燃焼に伴う反応度の調整など長期にわたる出力制御に使用される。原子炉出力を変えてそれに応じてタービン出力を変える「タービン側が原子炉側に追従する」制御方式を採用している。
 加圧水型原子炉と同様に、事故時対応設備として、非常用炉心冷却装置:高圧注入系、低圧注入系、炉心スプレイ系;原子炉格納容器、格納容器スプレイ系などの安全設備が設けられている(図8)。
 以上、GE社が開発した沸騰水型原子炉のしくみについて述べた。
<図/表>
表1 原子力発電所と火力発電所の蒸気条件の比較
表1  原子力発電所と火力発電所の蒸気条件の比較
表2 核分裂前後の質量の比較
表2  核分裂前後の質量の比較
表3 核分裂エネルギーの内訳
表3  核分裂エネルギーの内訳
表4 加圧水型原子力発電所の主要な設備仕様
表4  加圧水型原子力発電所の主要な設備仕様
表5 沸騰水型原子力発電所の主要な設備仕様
表5  沸騰水型原子力発電所の主要な設備仕様
図1 原子力発電所と火力発電所との比較
図1  原子力発電所と火力発電所との比較
図2 加圧水型原子力発電所の基本構成
図2  加圧水型原子力発電所の基本構成
図3 加圧水型原子力発電所の原子炉(圧力)容器内構造
図3  加圧水型原子力発電所の原子炉(圧力)容器内構造
図4 加圧水型原子力発電所の蒸気発生器
図4  加圧水型原子力発電所の蒸気発生器
図5 加圧水型原子力発電所の安全設備
図5  加圧水型原子力発電所の安全設備
図6 沸騰水型原子力発電所の基本構成
図6  沸騰水型原子力発電所の基本構成
図7 沸騰水型原子力発電所の原子炉(圧力)容器内構造
図7  沸騰水型原子力発電所の原子炉(圧力)容器内構造
図8 沸騰水型原子力発電所の安全設備
図8  沸騰水型原子力発電所の安全設備

<関連タイトル>
温室効果ガス (01-08-05-02)
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BWRの工学的安全施設 (02-03-04-01)
PWRの炉心設計 (02-04-02-01)

<参考文献>
(1)立花 昭:原子力発電と動力用原子炉(原子力の基礎講座3)、日本原子力文化振興財団(1984年3月)
(2)(社)火力原子力発電技術協会(編、刊):やさしい原子力発電(火原協会講座−15)(1990年6月)
(3)東京電力:TEPCO設備一覧、http://www.tepco.co.jp/tp/list/index-j.html
(4)藤井晴雄、森島淳好(編):原子力発電プラントデータブック1994年版、日本原子力情報センター(1964年8月)
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